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ハワイ陪審法廷を見学して

弁護士 阪本康文

今次司法改革において日弁連は、法曹一元制度、陪審・参審制度の実現等を求め、運動を展開しています。その一環として日弁連はハワイ州司法制度調査「百聞は一見に如かず」ツァーを企画し、私は副会長をしていた関係で参加することになりました。この調査は2000年2月27日(日)〜3月5日(日)の日程で実施され、情勢を反映し、参加者が90名近いという大調査団になりました(52の単位会中33の単位会から参加)。調査は連日行われ、充実した中身の濃い調査でしたが(残念ながら観光の時間はありませんでした)、字数の関係で、陪審裁判の報告をします(調査の詳細は日弁連から報告書が発行されます)。

2月28日(月)午後2時30分、サーキットコート(巡回裁判所と訳しますが、日本の地方裁判所のようなものです)3階の法廷に入ったところ、検察官(男性)と公設弁護人(女性)が開廷を待っていました。

私たちの質問に対し、親切に事件の概要について説明してくれました。事案は、交際していた男性が女性に対し暴行して傷害を負わせたなどというドメスティックバイオレンスの事件であり、男性は否認しています。また、この事件の陪審裁判は4回目ということであり(2月23日に陪審裁判開始)、証人として任意に出頭しなかった近所の女性を勾引中ということでした。

約30分して証人の女性が法廷に入り、ハディー判事(男性)が法廷に入ってきました。そして、廷吏が2回木槌をたたいて「オール・ライズ・フォー・ジュリー」(陪審員に向かって全員起立)と告げ全員起立し、法廷の入り口から陪審員が法廷に入ってきました。まさに陪審員が法廷の主役です。審理が始まり、証人の尋問が行われ、引き続き、検察側及び弁護側双方のインベスティゲーター(訳は調査官とでもいうことになりますが、その地位・権限・根拠等よくわかりません)の尋問が行われました。尋問は検察官及び弁護人ともに、証人に向かってたんたんとした様子で行われ、テレビや映画で見るパフォーマンスにあふれた尋問とは違い、日本における尋問と変わりないように思いました。3人の証人尋問にかかった時間は合計約45分であり、ハディー判事は陪審員に対し、2日後の3月1日(水)午前9時30分に再度裁判所に来るように話して閉廷しました。

私たちは裁判官から話しを聞きたい旨依頼しましたところ、すぐにハディー判事は法廷に現れ、私たちの質問に対し、フランクに応じてくれました。この点、日本では所長にお伺いを立てると言うことになるのでしょうが、まさにアメリカは「マイコート」(裁判官が主宰者、法廷の入り口にも各裁判官の名が記されています)であり、しかも、裁判官の目が上ではなく、市民の方に向いているという印象を受けました。ハディー判事は、陪審員の事実認定能力について、一般論という前提ながら、陪審員の事実認定と裁判官の事実認定は99%くらい一致するだろうと言い、陪審員の事実認定能力に問題がない旨話しました(要は、裁判官が適切な説示をすることが重要と言うことです)。調査団の方から、「事実認定がほぼ同じであるならば、陪審裁判よりも裁判官による裁判の方がコストがかからなくて良いのではないか。」という質問が出ましたが、これに対しハディー判事は、「アメリカ独立戦争の歴史もあり、アメリカの国民は政府を信頼していない。裁判官も政府の一員である。同じ結論でも、国民は裁判官よりも陪審による裁判の方が納得する。」の述べたのが歴史性を感じさせ、印象的でした。

3月1日(水)午前9時30分、私たちは再びハデイー判事の法廷に行きました。検察官の弁論は、被害者の女性が警察へ通報したときの録音テープの再生、被告人の取り調べ状況のビデオの上映をしながら、13人の陪審員(うち女性4人、なお、予備陪審員1人)に向かって約26分行いました。次いで、弁護人が陪審員に向かって約36分の弁論を行い、その後、再び検察官が約10分弁論を行いました。この弁論は尋問の時の印象とは異なり、まさに陪審員に向かって陪審員を説得するために行われており、周到な準備と説得力が必要ということが実感されました。その後、ハディー判事の陪審員に対する説示が約47分にわたって行われました。6つの訴因があるということであり(よく分かりませんが、法定刑を合計すれば数十年になる重罪ということです)、その一つ一つについて要件を説明し、それぞれ合理的な疑いがない程度に検察官が証明できているか否かについて判断するように説示し、陪審員は真剣な表情で聞いていました。

そして、正午に説示は終わり、陪審員は評議に入りましたが、閉廷後、私たちは再びハディー判事に話を聞きたい旨依頼すると、今度も気軽に応じてくれました。私たちは、評決を聞きたかったのですが、評議が何時までかかるのか分かりません。午後も裁判所に行ったのですが、午後3時半までには評議がまとまらず、やむなく私たちは次の予定であるハワイ州最高裁の視察に行きました。評決がわからなかったのは、心残りです。

私の受けた印象ですが、陪審裁判は、裁判官、検察官、弁護人ともに陪審員に向かって裁判をしており(その意味でわかりやすい司法になっており、また、陪審制度には陪審員になることによって司法制度を考える教育的効果があることを実感しました)、まさに市民による司法が行われていると言うことです。裁判官、検察官、弁護人ともに市民に目を向け、私たち外国の調査団が突然法廷を訪れても気軽に応対してくれるのは、日本の現状に鑑みれば、極めて驚きであり、新鮮でした。まさに「百聞は一見に如かず」です。陪審制度は、事実認定手続のみを陪審員にゆだねるではなく、まさに司法制度の抜本的改革であり、実現のために解決すべき多くの課題がありますが、市民による司法のすばらしさを実感した調査でした。

以 上

注:和歌山弁護士会「会報(第56号)」(2000年5月発行)より転載。

2000年4月14日更新