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コーヒーブレイク

弁護士の仕事あれこれ……更生管財人

弁護士 岡本 浩

一、経 過

私は95年8月より、社員40人余りの自動車学校の更生管財人を務めています。

ここ1・2年、会社更生事件が全国的に続発するに及び、会社更生とは何か、更生管財人とは何をするのかとの興味を抱かれる方も多くなっているかと思われます。そこで、更生管財人業務の実情と弁護士はこんなこともしていることとを、できるかぎり皆様にお伝えするべく本文を書いた次第です。

二、会社更生・更生管財人とは何か

企業が経営に行き詰まり、その再建方法を裁判所に要請するのが会社更生法による会社更生です。そして、裁判所が立ち直りの見込みがあると判断した場合、裁判所の選任によりその企業の再建のために送り込まれる者が更生管財人です。その結果、更生管財人は、その企業の全権を掌握し、裁判所の監督の下に再建方法を模索することになります。

三、私の更生管財人としての業務状況

この会社の場合、更生管財人は私1人です。このため、営業資金一切の管理・新入社員の採用や幹部の登用等社員の人事管理・物品や車両の購入等、日常教習業務以外の一切は、私が管理しています。もっとも、私が会社まで出向くのは、更生開始より1ないし2年の間は月に10度位でしたが、業務が安定した昨年になってからは、月に5度位となっています。そこで、会社の日々の会計・業務については、一定の報告書式を作成し、これを私の法律事務所へファックスさせ、毎日の会社業務をつかむようにしています。

会社では、課長以上の管理職による会議を定期的に主宰し入校生増加等の検討といった経営方針をねったり、月に1度位は全社員への訓示などもやっています。また、私より幹部社員への指示は、電話やファックスでほぼ毎日となっています。こうして、更生管財人としての業務従事中は、同業他社との値引き競争による生徒の奪い合いなどといった、「もうけ追求」の経営世界に身をおいています。おもてむきはもとより、実際のありようとしても、営利追求を至上目的としない弁護士業界とは全く様子の異なる世界で仕事をしているといえます。

また、会社の全業務を掌握するのですから、社員旅行はもとより、忘年会等の行事、年末の締めや年始の開始式等、全てに参加しています。こうした意味では、自分の法律事務所分を合せ、通常の事業体に求められる年間行事の全てを2回ずつこなしていることになります。さらに、春闘やボ−ナス前には、経営者として労働組合との団体交渉をやっており、自動車学校経営者団体の会合にも2ケ月に1度位の割合で出席しています。

このように、更生管財人としての私の業務状況は、中小企業の経営者そのものです。この業界に全く素人であった私がなんとかやれているのは、自動車学校の経営というものが、仕入れがなく技術を売る商売である点で、法律事務所の経営に類似していることに負うところが大きいと思っています。

四、余 談

私は、この会社の更生管財人就任時、運転免許はもっていませんでした。私の事務所の職員が車を運転するのとタクシ−を使うのとで、仕事・生活共に特に不便を感じていなかったからです。それと自動車学校へ行って「教官からあれこれと言われる」のに、とても忍耐できないだろうと思っていたからです。 しかし、運転免許取得の学校を経営するのに、自分が車に乗れないというのでは、話にならないことは自明です。そこで、先ず自分が、そして妻が、この学校で免許を取得しました。技能教習では何回か「見きわめ」に落とされましたが、懸念の「あれこれと嫌味を言われる」等がなくてすんだことはいうまでもありません。

ところで、営業成績を伸ばす必要もあり、私自らも入校の勧誘をできる限り続けており、その効あり、弁護士2名、司法修習生3名、裁判官1名、検察官1名に入校してもらい、この学校で免許を取得していただきました。いずれも、「親切な教習を受けられた」と大いに感謝してもらいました。

私に関していえば、自分が車に乗るようになったことで、ずいぶん行動と世界を拡げることができました。昨年9月、函館に出張した際、レンタカ−で道南をドライブすることもやってみましたが、マイカーで走る世界はタクシ−で拡がる世界とは違うことを実感しました。おそらく、この更生管財人を引受けることがなければ、自分では車を運転しないままの人生であり、50才を超えての右のような快事を体験することもなかったと思われますから、このことだけでもこの仕事の受任に大いに感謝しています。

五、おわりに

更生管財人の業務は、事業の再建と従業員の生活を一身に背負うわけであり、その責任の重さには、時としてつらいなと思うこともあります。更生開始3年目位になる頃から、会社が危なくなり個人の慶事を控えていたと思われる社員の中に、家を買ったり結婚する者が続くようになりました。社員の祝い事を喜びつつ、次の一瞬は、そのロ−ンと家族の生活が自分の肩にのしかかってくるような複雑な思いにもなります。しかし、すぐに、「この連中の生活の基盤を崩壊させるわけにはいかない」との思いにかられもするのであり、逆に言えば、この業務は、それだけやりがいも大きいことになります。

会社が少し安定した後、5、000万円余を投じ車両30台を一挙に新車に入れ替えることをしましたが、これらの決裁は全て自分でやるわけであり、法律事務所経営では味わえない規模の大きいおもしろさがあります。さらに、教習所の社員や教習所業界の人々といった、弁護士の本来の業務では出会うことのなかったであろう人々との出会いの楽しみもあります。

その弁護士能力において尊敬する1人である東京のある弁護士は、その著書の中で「更生管財人の仕事は、まさに弁護士冥利に尽きるものである」と記していますが、実際にやってみて私も全く同感の思いです。私が担当している更生会社の前途はなお多難ですが、右のような思いに感謝しつつ、ここしばらく、この会社の再建に全力を尽くしていこうと思っています。

以 上

注:和歌山弁護士会「会報(第53号)」(1998年12月発行)より転載。

1999年2月25日更新