弁護士によるコラム

フランスの犯罪被害者支援制度について

山西 陽裕

1 はじめに

大阪弁護士会犯罪被害者支援委員会が、平成20年2月21日から27日まで、フランスの犯罪被害者支援制度の調査に行くとのことであったので、私も研修のために参加させてもらいました。

その後、昨年8月に、「フランス犯罪被害者支援制度調査報告書」が完成し、私も、一部執筆を担当させてもらいました。

同報告書は、フランスにおける犯罪被害者支援の制度を、フランスの学者や実務家等からの説明を基に報告しているため、フランスの犯罪被害者支援制度が具体的で分かり易いものとなっていると思います。

同報告書を当会犯罪被害者支援委員会にも配布していますが、同委員会では一瞥した程度ではないかと思います。そこで、同報告書の案内を兼ねて説明させて頂きます。そこで、内容については、同報告書からの引用が大半であることをお断りするとともに、文責は私にありますのでよろしくお願い致します。

2 フランスにおける犯罪被害者の地位

パリ第1大学の教授デアルラゼルジュ教授(刑法及び刑事政策専攻)からフランスにおける犯罪被害者の地位や犯罪被害者支援制度について説明を受けました。また、フランスにおける犯罪被害者支援制度については、Ds-Avocats法律事務所を訪問し、同事務所所属の弁護士からも説明を受けました。

フランスでは、犯罪被害者に対し、附帯私訴の手続が認められています。附帯私訴提起について、弁護士代理は強制されていませんが、弁護士を選任している場合、被害者が証言し、弁護士が被告人質問や弁論を行い、弁護士を選任していない場合は、被害者の被告人質問は裁判官を介して行うとのことです。

ところで、犯罪被害者が審理に参加し、裁判官の面前で質問したりすることは、被告人の無罪推定の原則に悪影響を及ぼさないかとの質問に対し、同教授は、裁判官が独立で内面の確信により判決できるとすれば十分であるとのことでした。更に、陪審員に被害者が苦痛を訴えたことについて、極端に同情してしまい、被告人の無罪推定が後退するのでないかとの質問についても、むしろ陪審は無罪のものを有罪にしないかに神経質になっており、無罪推定に影響がないとのことでした。フランスでは、ヨーロッパ人権条約第6条第1項から解釈上被害者の権利を導き、被害者の権利が確立されているとのことでした。

フランスでは、附帯私訴の外、
・被害者裁判官制度
・テロ行為その他犯罪被害者補償基金(FGTI)
・犯罪被害者補償委員会(CIVI)
・犯罪被害者支援組織による支援(INAVEM)
等々の犯罪被害者支援制度が存するとのことです。

3 被害者裁判官制度

裁判官が刑事手続等において犯罪被害者の利益を代弁する制度であり、刑事裁判の全期間を通じて、犯罪被害者に情報を提供し、捜査機関と被害者との間の橋渡しをするとのことです。更に、判決後行政裁判所が受刑者の仮釈放の可否を決定するについて、被害者裁判官は、被害者の利益を代弁して意見を述べたりするとのことです。しかし、この制度は、法曹界では公平でないことを理由に反対が多く、現在、違憲審査請求が行われているとのことです。

4 テロ行為その他犯罪被害者補償基金(FGTI)

テロ行為その他犯罪被害者補償基金(FGTI)については、FGTI本部を訪問して事務局長から説明を受けました。

フランスでは、1977年、犯罪被害者補償制度が導入され、当初はテロ被害者への補償のみでしたが、1990年には個人的な犯罪被害者にも拡大され、テロ行為その他犯罪被害者補償基金(FGTI)となったということです。

もっとも、交通事故(自動車事故)については、別途、損害強制保険補償基金(FGAO)があります。

FGTIは、被害者への十分な補償の反面、加害者への責任追及(求償)をすることを政策としています。

FGTIの財源は、各個人の損害賠償保険の保険金の一部(3.3ユーロ)を拠出して財源としています。フランスの人口は、現在約5,500万人ですが、現在の保険の加入口数は、約6,000万口であるとのことです。

また、犯罪被害者は、仮に保険に加入していないからといっても、FGTIからの補償を受けることができます。

FGTIは、上記政策に基づき加害者を追及し、求償を行っていきます。「基金は逃がさない」との標語に基づいて加害者に対して責任を追及(求償)しているとのことです。

刑務作業費についても追及しています。服役者の約4分の1から弁償金の支払いを受けています。もっとも、服役者も弁償すると早く出所できるため弁済をするとのことです。

FGTIは、リビアに対し、テロに関する被害者補償の求償を行使し、イラクに対しては、捕虜の精神的被害を受けた者に対する補償の求償を行ったこともあるとのことです。

5 犯罪被害者補償委員会(CIVI)

犯罪被害者補償委員会(CIVI)については、元CIVI委員長(現パリ控訴院裁判官)から、詳細な説明を受けました。

フランスでは、FGTIから、補償を受けるためにCIVIから賠償命令を受ける必要があります。

CIVIは、フランス全国に220ある大審裁判所(日本の地方裁判所に相当)内に設置され、裁判官3名(但し、1名は職業裁判官、他の2名は民間人)、当事者として被害者及びFGTIが出席し、当事者ではないが参加人として検察官が出席します。もっとも、被害者の出席は義務的ではなく、審理は非公開です。

CIVIは、刑事裁判から独立していますが、附帯私訴を提起しない限り補償は認められません。

CIVIは、重大な身体的被害について損害の全部を賠償するとともに、被害者の後遺症を認定するために医師に鑑定を命じたりする等被害者に有利な証拠を探したりすることもあります。

尚、CIVIの決定に対し、控訴院に異議申立ができます。

6 国立被害者救済斡旋機関(INAVEM)

国立被害者救済斡旋機関(INAVEM)本部を訪問し、同機関の職員から説明を受けました。

1980年代になると、弁護士、法務官、その他法曹関係者、医師等が集まって多数の被害者支援団体を作られるようになり、このような団体を統合する組織が必要となり、1986年にINAVEMが設立されました。INAVEM自身は、被害者に対して直接援助は行わないが、INAVEMに連絡を取れば適切な被害者支援団体にアクセスできることになります。

実際の援助は、フランスに現在157ある加盟団体が担当し、INAVEMは、各加盟団体を連携させる役割をもっています。

特に、INAVEMは、電話相談を受付し、「08ビクテイム」に電話をすれば、INAVEMのみに電話がかかります。電話を受けたINAVEMは、子供や老人が被害者であったり、暴力事犯の場合であったりする時、適切な支援団体に電話で聴取したレジメを送付し、同団体に対応をしてもらうことになっています。

INAVEM(加盟団体)は、刑事仲介(刑事裁判前に1回限りで加害者と被害者の話し合いの仲介を行い、仲介が成立した場合刑事手続を行わない。但し重大犯罪は対象外)や犯罪被害者のカウンセリング、集団訴訟への関与等が行われているとのことです。

7 矯正施設

パリ郊外にあるヴァルドワ-ズ拘置所を見学し、同拘置所長から説明を聞きました。同拘置所は、約500人の受刑者と約300人の未決、若干の未成年者を収容しているとのことでした。

同拘置所では、約100人が刑務作業(任意)を行い、仕事は民間企業が窓口となり、作業報酬金は民間企業が支払うとのことでした。

作業報酬金の使途として、3分の1は、自己使用(煙草等の購入)、3分の1は、出所の際の生活資金、3分の1は、被害弁償に充当するとのことでした。

また、受刑者は、賠償命令の判決を得た者に対し、刑務作業の報酬の一部を賠償金に充当することになっています。 更に、刑務作業による報酬を被害弁償に充当し、被害弁償を実行すれば行刑裁判官による裁判により刑期も短縮し、早く出所できるとのことです。

上記FGTIが被害者に被害弁償している場合は、受刑者がFGTIに返済するシステムになっているとのことです。

8 弁護士会の役割

パリ弁護士会を訪問し、主にJacques Huillier氏(パリ弁護士会理事、同弁護士会国際委員会委員)から説明を受けました。

同氏によると、パリ弁護士会内に犯罪被害者支援の為の常設的な組織は存在せず、また特に弁護団を組織して犯罪被害者支援を行うということはないとのことでした。

犯罪被害者の相談は、一般の法律相談としての相談を受けるとのことでした。

ただ、犯罪被害者のために、附帯私訴を伴った告訴をしたり、既に刑事手続が始まっている時は同手続に参加する方法をとるとのことでした。

フランスでは、前記のような被害者支援制度が、日本より進んでいるため、弁護士、弁護士会の犯罪被害者に対する支援活動は日本より消極的でないかと感じるとともに、他方日本では、これまでフランスのように法制度が十分でなかったことから、弁護士、弁護士会の犯罪被害者に対する支援活動が積極的になったのではないかと感じた次第です。

以 上

注:和歌山弁護士会「会報(第76号)」(2010年5月発行)より転載。