刑事弁護委員会 2018年(平成30年)度

委員長 久保 博之 副委員長 小泉 真一
九鬼 周平

1 委員会の目的について

刑事弁護委員会は、被疑者(犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっている人)や被告人(検察官から刑事事件を犯したとして起訴された人)の権利を守り、弁護人が充実した刑事弁護活動を行うために必要な活動をすることを目的とする委員会です。

当委員会は、経験豊富なベテランから新進気鋭の若手弁護士まで25名の委員で構成される当会の大規模な委員会の1つとなっています。

なお、当委員会の名称は、昨年度まで「刑事問題対策委員会」でしたが、今年度から「刑事弁護委員会」に改称されております。

2 委員会の普段の活動について

当委員会では、私選弁護人の紹介や当番弁護士制度(逮捕された被疑者が警察の留置施設等で初回無料で弁護士と接見できる制度)、刑事被疑者援助制度の運営、さらには国選弁護人候補者の日本司法支援センターへの推薦業務などを行っています。

また、当委員会では、各弁護士が被疑者・被告人のために充実した弁護活動を行えるよう、①各分野に精通した実務家や法医学者などの専門家を招いての研修会、②自己の弁護活動で得た経験を共有する経験交流会、③裁判所・検察庁・弁護士会の3者で実務上の問題点を議論する三庁意見交換会、などを実施しており、弁護活動に必要な環境を確保するための活動、時には特定の事件の弁護人をバックアップする体制の構築などの活動も行っています。

当委員会は、大多数の会員の協力を得ながら、裁判所・検察庁・警察その他関係機関と連絡を取りつつ、日常的に以上の活動を行っています。

以上のとおり、当委員会では市民からの要請に即応できる体制を整えておりますので、刑事事件・刑事弁護に関することについては、是非、弁護士会にご相談下さい。

3 今後取り組むべき課題について

さらに、当委員会では次のとおり重点課題を設け、より積極的な取り組みを目指していきます。

(1) 刑事訴訟法の改正への対応

一昨年6月には刑事訴訟法の大きな改正がなされ、既に現在までにも「裁量保釈に当たっての考慮事由の明文化」「公判前整理手続等の請求権の付与」「証拠一覧表の交付制度」「類型証拠開示の対象の拡大」といった多くの制度が導入されております。

また、この後も平成31年6月までに渡り、多くの制度が導入される予定です。

当委員会では、このような刑事訴訟法の改正に対応できる体制を構築するとともに、会員の研修を行います。

(2) 被疑者国選弁護の一層の充実に向けて

当委員会では、刑事訴訟法の改正により今年6月にも施行がなされる「被疑者国選第3段階」(罪名を問わず勾留された全被疑者を対象とする被疑者国選弁護制度)を見据え、紀南地域の会員の協力を得て、弁護士数が少ない地域(田辺・新宮地域)においても、休日における私選弁護人の紹介、当番弁護士体制、被疑者国選弁護人の候補者推薦体制の拡充を図ってきました。また、当委員会では、昨年度より「第3段階」への移行を滞りなく行うための制度設計を図ってきた結果、田辺警察署において身体拘束された被疑者については「田辺支部管内被疑者国選等特別名簿」を新たに設置し、より手厚い被疑者国選弁護体制の構築を行ってきているところです。

さらに、裁判員裁判対象事件を中心として、逮捕された被疑者に弁護士を派遣し国選弁護人が速やかに選任されるよう適切な助言を行う活動(委員会派遣制度)や、選任された弁護人を援助する活動(バックアップ制度)も行っております。

当委員会では、今後もこのような活動に一層力を入れるとともに、刑事弁護を担う会員のニーズに応える活動を重ね、弁護の質の向上に取り組んでいきます。

(3) 捜査・公判協力型協議・合意制度の導入に向けて

当委員会では、今年6月にも導入がなされる「捜査・公判協力型協議・合意制度」に向けて、これまでにも研修を重ねて参りました。当該制度は、簡潔に申せば、「被疑者・被告人が、共犯者等『他人』の犯罪事実の捜査や訴追に協力することと引き換えに、弁護人の同意の下、不起訴処分等の恩典を検察が与えることを合意する制度」であり、自己負罪型とは異なり「捜査・公判協力型」の司法取引というべき制度です。

当該制度は、制度設計や条文構造が難解であるのみならず、弁護人にとっては弁護士倫理や懲戒請求等に直面する場面も少なくなく、これまでの刑事弁護活動とは異なった利益衡量等が求められる制度です。

とは申せ、導入時期が目前に迫っていることから、当委員会としても、当該制度を用いた場面に直面し得べき弁護士倫理の課題等も洗い出しながら、さらに研修を重ねていく予定です。

(4) 罪に問われた障害者の刑事弁護の充実

精神障害等を有する人が被疑者・被告人となった場合、多くの場合は捜査機関により簡易鑑定又は本鑑定がなされ、その責任能力又は訴訟能力の有無につきスクリーニングがなされています。しかし、必ずしも、かかるスクリーニングを全ての精神障害等を有する被疑者・被告人が受けているとは限りません。そのような場合、弁護人が精神障害等の有無に反応し、捜査機関と連携してスクリーニングを行い、あるいは裁判所に対して精神鑑定の請求を行う必要があります。

他方で、精神障害等によりコミュニケーション能力に障害ある人が被疑者となった場合、自己がおかれている状況を的確に理解・把握して適切に自己を防御できない結果、ことさらに取調官の誘導に乗ってしまうこともあり、そのため冤罪の被害者となることがあります。

さらには、障害のある人が適切な社会的福祉を受けることができない結果、軽微な万引きや無銭飲食を繰り返してしまうこともあります。

精神障害等を有する被疑者・被告人に対する刑事弁護は、今まで各会員の「職人技」に頼ってきておりましたが、当委員会では、昨年度より高齢者・障害者支援センター運営委員会及び子どもの権利委員会等と連携をとり、障害特性に対する正しい理解に応じた適切な弁護活動・支援が出来るよう体制を整えてきているところです。今年度は、昨年度からの議論の積み重ねや制度設計の上で、実務上の運用にまで達することを目標としております。

(5) 弁護活動の環境整備に向けて

現在、和歌山県内の各警察署には、和歌山東警察署、和歌山西警察署、御坊警察署、田辺警察署、県警本部留置センターを除いて、接見室が各一つしかなく、弁護人と一般面会者の共用となっています。

そのため、身体拘束されている被疑者・被告人と弁護人の意思疎通を図る唯一の「窓口」である接見室が混み合い、弁護士と被疑者・被告人との面会に支障が生じることがあります。

こうした状況を打破するため、捜査機関に対し接見室の更なる拡充を求め、さらには弁護人と被疑者・被告人間で速やかに書類等をやり取りできるような環境を確保することなど接見交通の基本に関わる事項についての改善に取り組みたいと考えています。

また、一昨年12月より、逮捕された被疑者に対し捜査機関等が弁護人選任権だけではなく「弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない」旨の改正が施行されております。当委員会では、今後とも関係機関と協議をしていくなどして、刑事訴訟法の改正の趣旨を受け、弁護人選任権が実質的に保障されるよう働きかける予定です。

(6) 取調べの全面的可視化に向けて

密室での取調べによる自白強要、そこから生じる冤罪の危険性など捜査のあり方が問われて久しいですが、今なお、厚労省郵便不正事件(村木事件)や足利事件、袴田事件等でこうした捜査手法が冤罪につながる危険を持つことが次々と明るみになっています。

平成31年6月までには裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件について取調べ全課程の録音・録画がなされる予定ですが、いまだ対象となる事件は限定されており、自白強要等を完全に防ぐには到底十分ではありません。

そこで、当委員会としては、平成26年6月16日付最高検依命通知の実践的活用も含め、全ての事件についての取調べの全課程の録画、即ち取調べの全面的可視化の実現に取り組んでいきます。

(7) 身体拘束からの解放に向けて

逮捕後の勾留の場合、適切な疎明資料を添付し適切なタイミングで意見書等を裁判所に提出すれば、勾留請求が却下されることも珍しいわけではありません。確かに、かかる却下率は数年前まで年間数%程度にとどまっておりましたが、平成29年の東京地方裁判所及び簡易裁判所での却下率は約12.7%に上るという報道もあり、近年のかかる却下率は、勾留請求前での弁護人就任が増大することに伴いつつ、上昇傾向にあると思われます。

また、起訴後の被告人には保釈が権利として認められているものの、現実には保釈請求の認容率は低水準となっています。もっとも準抗告等を行った場合、原決定が覆ることもあり得ます。

当委員会では、「人質司法」を打破するため、そして身体拘束されている被疑者・被告人の権利擁護のため、被疑者・被告人を早期に身体拘束から解放することが出来るよう研修を行っていきます。

(8) 公判前整理手続等の充実に向けて

裁判員裁判対象事件以外でも、特に否認事件の場合、証拠開示や証明予定事実などの観点から、弁護人としては、公判前整理手続・期日間整理手続を用いる方が良いとの判断に至ることも少なくありません。また、一昨年12月に施行された改正刑事訴訟においても、被告人や弁護人には公判前整理手続等の請求権が明文で付与されているところです。

当委員会では、刑事訴訟法の改正の趣旨を受け、弁護人等からによる公判前整理手続等の請求がなされた場合、裁判所に対し積極的に同整理手続等に付するよう求めていきます。

4 これからの課題を担う刑事弁護委員会の体制について

当委員会では、当会執行部、関連委員会及び全会員の協力を得て、より充実した刑事弁護体制の構築と被疑者・被告人の迅速適切な権利擁護のため、一層強力に取り組みたいと考えています。