刑事弁護委員会

委員長 赤木 俊之 副委員長 久保 博之
福山 佳孝

1 委員会の目的について

刑事弁護委員会は、被疑者(犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっている人)や被告人(検察官から刑事事件を犯したとして起訴された人)の権利を守り、充実した刑事弁護活動がなされるために必要な活動をすることを目的とする委員会です。

当委員会は、経験豊富なベテランから新進気鋭の若手弁護士まで23名の委員で構成される当会の大規模な委員会の1つとなっています。

2 委員会の普段の活動について

当委員会では、私選弁護人の紹介や当番弁護士制度(逮捕された被疑者が警察の留置施設等で1度だけ無料で弁護士と接見できる制度)、刑事被疑者援助制度(私選弁護人を依頼する場合で一定の要件を満たす場合、弁護費用について援助を受けることができる制度)の運営、さらには国選弁護人候補者の日本司法支援センターへの推薦業務などを行っています。和歌山には、御坊、田辺、新宮の各支部がありますが、各支部の事件についても、以上の当番弁護士制度、刑事被疑者援助制度、国選弁護人候補者の推薦業務の運営が滞りなくできるよう取り組んでいます。

また、当委員会では、各弁護士が被疑者・被告人のために充実した弁護活動を行うことができるよう、各分野に精通した実務家を招いての研修会などを実施しており、会員等の協力を得ながら充実した弁護活動に必要な環境を整えるとともに、必要なスキルを会員が習得することができるための活動も行っています。

以上のとおり、当委員会では市民からの要請に即応できる体制を整えております。刑事事件・刑事弁護に関することについては、是非、弁護士会にご相談下さい。

3 今後取り組むべき課題について

さらに、当委員会では次のとおり重点課題を設け、課題の実現・解決に向けた積極的な取組みをしていきます。

(1) 被疑者国選弁護の一層の充実に向けて

刑事訴訟法の改正により平成29年6月に施行された「被疑者国選弁護制度の拡大」により、罪名を問わず勾留された全被疑者が被疑者国選弁護制度の対象となりました。

日本弁護士連合会では、被疑者国選弁護事件をさらに拡充して、勾留前の逮捕段階から被疑者国選弁護人制度の対象となるよう取り組んでいますが、これが実現した場合にも、円滑に国選弁護人を推薦できるような体制を検討していきます。

(2) 身体拘束からの解放に向けて

我が国における「身体拘束下において被疑者から供述を得る」という捜査手法については、「人質司法」として国外からの批判も高まっているところです。

当委員会としては、「人質司法」を打破するため、そして身体拘束をされている被疑者・被告人の権利擁護のため、被疑者・被告人を早期に身体拘束から解放するべく活動を行っていきます。その一環として、当委員会では、会員の協力のもと勾留を争った事例を集積し、刑事弁護活動を行う会員が身体拘束を争う際に参照することができるよう、「勾留を争った事例集」の編纂を行い、全会員に配布しました。

当委員会としては、引き続き、高い勾留却下率を上げている他の弁護士会の弁護士を講師に招いて研修を行う等して身体拘束解放に関する強化運動を行っていきます。

また、保釈についても、認容率が高くなるようなスキルの獲得に向けて取り組んでいきます。

(3) 罪に問われた障がい者の刑事弁護の充実

精神障がい等によりコミュニケーション能力に障がいのある人が被疑者となった場合、自己がおかれている状況を的確に理解・把握して適切に自己を防御できない結果、ことさらに取調官の誘導に乗ってしまうこともあり、そのため冤罪の被害者となることがあります。そこで、当委員会では、平成28年度より高齢者・障がい者支援センター運営委員会及び子どもの権利委員会等と連携をとり、障がい特性に対する正しい理解に応じた適切な弁護活動・支援が出来るよう体制を整えてきているところです。

また、障がいのある人が適切な社会的福祉を受けることができない結果、社会において「生きづらさ」を感じ、犯罪行為を繰り返してしまうこともあります。そこで、当委員会としては、地域生活定着支援センターなどの福祉専門職との連携を深めるとともに、勉強会を実施する等して、障がいのある被疑者・被告人が適切な福祉サービスを受け、「生きづらさ」から再び犯罪をすることがないような環境を整えることができるような弁護活動を行う体勢を構築していきます。このような環境を整えるため、刑事裁判において「更生支援計画」を策定し、証拠として提出してきたところですが、本人が刑務所に入ったときには、その引き継ぎができていませんでした。今年度から、「更生支援計画」の引き継ぎについても取り組みを始めます。

(4) 寄添弁護士の活動

上述のように、国選弁護人が就くのは、被告人と、身体拘束をされている被疑者のみです。そこで、起訴猶予等で釈放された「元」被疑者、刑事裁判で執行猶予判決を受けた「元」被告人等に関しては、国選弁護人としてその後の環境調整などをすることができない状態になっていました。

今年度から、「元」被疑者や「元」被告人のために、環境調整などの活動をした場合に、日弁連から一定の補助を受けることができるようになりました(「寄添弁護士」と言われます)。

当委員会においても、和歌山で積極的に寄添弁護士活動が行われるよう取り組みます。

(5) 取調べの全面的可視化及び取調べにおける弁護人立会権の実現に向けて

密室での取調べによる自白強要、そこから生じる冤罪の危険性など捜査のあり方が問われて久しいですが、今なお、厚労省郵便不正事件(村木事件)や足利事件、袴田事件、湖東事件等でこうした捜査手法が冤罪につながる危険を持つことが次々と明るみになっています。

2019年6月付で裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件について被疑者取調べ全過程の録音・録画がなされることになりましたが、いまだ対象となる事件は限定されており、自白強要等を完全に防ぐには到底十分ではありません。そこで、当委員会としては被疑者取調べ全過程の可視化(録音・録画)の実現に取り組みます。

また、参考人の事情聴取においても、その供述が任意になされたか否かを事後的に確認する必要があります。そこで、参考人の事情聴取における全過程の可視化(録音・録画)の実現に向けても取り組みます。

さらに、可視化がなされている取調べにおいても、プレサンス事件のように自白の強要や取調官の暴言などが存することが明らかになってきました。これら自白の強要や取調官の暴言等を防ぐためには、弁護人が取調べに立ち合い、即時に有効かつ適切な助言をするしかありません。そこで、日本弁護士会と歩調を合わせ、取調べへの弁護人立会い実現に向けても取り組んでいきます。

4 これからの課題を担う刑事弁護委員会の体制について

当委員会では、当会執行部、関連委員会及び全会員の協力を得て、より充実した刑事弁護体制の構築と被疑者・被告人の迅速適切な権利擁護のため、一層強力に取り組みたいと考えています。