刑事弁護委員会

委員長 久保 博之 副委員長 小泉 真一
津金 貴康

1 委員会の目的について

刑事弁護委員会は、被疑者(犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっている人)や被告人(検察官から刑事事件を犯したとして起訴された人)の権利を守り、弁護人が充実した刑事弁護活動を行うために必要な活動をすることを目的とする委員会です。

当委員会は、経験豊富なベテランから新進気鋭の若手弁護士まで25名の委員で構成される当会の大規模な委員会の1つとなっています。

2 委員会の普段の活動について

当委員会では、私選弁護人の紹介や当番弁護士制度(逮捕された被疑者が警察の留置施設等で1度だけ無料で弁護士と接見できる制度)、刑事被疑者援助制度(私選弁護人を依頼する場合で一定の要件を満たす場合、弁護費用について援助を受けることができる制度)の運営、さらには国選弁護人候補者の日本司法支援センターへの推薦業務などを行っています。

また、当委員会では、各弁護士が被疑者・被告人のために充実した弁護活動を行えるよう、①各分野に精通した実務家を招いての研修会、②自己の弁護活動で得た経験を共有する経験交流会などを実施しており、会員の協力を得ながら弁護活動に必要な環境を確保するための活動を行っています。

以上のとおり、当委員会では市民からの要請に即応できる体制を整えておりますので、刑事事件・刑事弁護に関することについては、是非、弁護士会にご相談下さい。

3 今後取り組むべき課題について

さらに、当委員会では次のとおり重点課題を設け、より積極的な取り組みを目指していきます。

(1) 刑事訴訟法の改正への対応

平成28年6月には刑事訴訟法の大きな改正がなされ、現在までにも「裁量保釈に当たっての考慮事由の明文化」「公判前整理手続等の請求権の付与」「証拠一覧表の交付制度」「類型証拠開示の対象の拡大」「被疑者国選弁護制度の拡大」「捜査・公判協力型協議・合意制度の創設」といった多くの制度が導入されており、本年6月に施行される「裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件の取調べの全課程の録画録音制度の導入」及び「通信傍受の合理化・効率化」をもって改正刑事訴訟法に基づく新制度の施行は全て完了することとなります。

当委員会では、このような刑事訴訟法の改正に対応できる体制を構築するとともに、充実した刑事弁護活動を行えるよう実践に即した研修を行います。

(2) 被疑者国選弁護の一層の充実に向けて

刑事訴訟法の改正により平成29年6月に施行された「被疑者国選弁護制度の拡大」により、罪名を問わず勾留された全被疑者が被疑者国選弁護制度の対象となりました。そこで、当委員会としてはかかる制度拡大に対し柔軟な対応を行うため、紀南地域の会員の協力を得て、弁護士数が少ない地域(田辺・新宮地域)においても、休日における私選弁護人の紹介、当番弁護士体制、被疑者国選弁護人の候補者推薦体制の拡充を図ってきました。

さらに、裁判員裁判対象事件を中心として、逮捕された被疑者に弁護士を派遣し国選弁護人が速やかに選任されるよう適切な助言を行う活動(委員会派遣制度)や、選任された弁護人を援助する活動(バックアップ制度)も行っております。

当委員会では、今後もこのような活動に一層力を入れるとともに、刑事弁護を担う会員のニーズに応える活動を重ね、弁護の質の向上に取り組んでいきます。

(3) 身体拘束からの解放に向けて

我が国における「身体拘束下において被疑者から供述を得る」という捜査手法については「人質司法」として今日のニュースでも取り沙汰され、国外からの批判も高まっているところです。そして、平成30年度の統計によれば、勾留却下率は全国平均で5.89%となっている一方、和歌山地方裁判所管内における勾留却下率は2.3%にとどまっている現状です。

当委員会としては上記のような結果を重く受け止め、「人質司法」を打破するため、そして身体拘束をされている被疑者・被告人の権利擁護のため、被疑者・被告人を早期に身体拘束から解放するべく活動を行っていきます。その一環として、当委員会では、会員の協力のもと勾留を争った事例を集積し、刑事弁護活動を行う会員が身体拘束を争う際に参照することができるよう、「勾留を争った事例集」の編纂を行い、全会員に配布しました。

当委員会としては、引き続き、高い勾留却下率を上げている他の弁護士会の弁護士を講師に招いて研修を行う等して身体拘束解放に関する強化運動を行っていきます。

(4)罪に問われた障がい者の刑事弁護の充実

精神障害等を有する人が被疑者・被告人となった場合、多くの場合は捜査機関により簡易鑑定又は本鑑定がなされ、その責任能力又は訴訟能力の有無につきスクリーニングがなされています。しかし、必ずしも、かかるスクリーニングを全ての精神障害等を有する被疑者・被告人が受けているとは限りません。そのような場合、弁護人が精神障害等の有無に反応し、捜査機関と連携してスクリーニングを行い、あるいは裁判所に対して精神鑑定の請求を行う必要があります。

他方で、精神障害等によりコミュニケーション能力に障がいのある人が被疑者となった場合、自己がおかれている状況を的確に理解・把握して適切に自己を防御できない結果、ことさらに取調官の誘導に乗ってしまうこともあり、そのため冤罪の被害者となることがあります。

そこで、当委員会では、2016年度より高齢者・障害者支援センター運営委員会及び子どもの権利委員会等と連携をとり、障がい特性に対する正しい理解に応じた適切な弁護活動・支援が出来るよう体制を整えてきているところであり、これまで、裁判所・検察庁・警察との協議を重ねて参りました。当委員会としては、今後も議論を重ね、制度設計を目指していきます。

また、障がいのある人が適切な社会的福祉を受けることができない結果、社会において「生きづらさ」を感じ、犯罪行為を繰り返してしまうこともあります。そこで、当委員会としては、地域生活定着支援センターなどの福祉専門職との勉強会を実施する等して、障害のある被疑者・被告人が適切な福祉サービスを受けることができるよう、「司法と福祉の連携」のもと再犯防止のために弁護活動を行える体勢を構築していきます。

(5) 未決拘禁者の勾留場所における環境整備に向けて

起訴後、被告人は拘置所において勾留されることになりますが、昨今、拘置所内において未決拘禁者が熱中症のため死亡したという事例や寒さのため凍死したという事例が起こっております。

「無罪推定の原則」により、未決拘禁者においては、何人も、有罪判決を受けるまではそれにふさわしい処遇を受けなければなりません。未決拘禁の目的は罪証隠滅または逃亡の防止であり、劣悪な環境に未決拘禁者をとどめ置くことは、このような目的とは無関係であって許されるものではありません。

当委員会としてはかかる未決拘禁者の勾留環境を問題視して、拘置所へ各居室へのエアコン設置、未決拘禁者の要望に応じ防寒具や寝具の贈貸与等の対策をとるよう、和歌山弁護士会として申入れを行う活動を行いました。

上記申入れにより問題が直ちに解決することにはならず、未決拘禁者の劣悪な環境は変わりませんので、当委員会としては引き続き申入れを行っていきます。

(6) 弁護活動の環境整備に向けて

平成28年12月より、逮捕された被疑者に対し捜査機関等が弁護人選任権だけではなく「弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない」旨の改正が施行されております。しかし、和歌山地方裁判所管内における、身体拘束下にある被疑者による当番弁護士の要請は56%にとどまっている状態です。当委員会では、今後とも関係機関と協議をしていくなどして、刑事訴訟法の改正の趣旨を受け、弁護人選任権が実質的に保障されるよう働きかける予定です。

(7) 取調べの全面的可視化に向けて

密室での取調べによる自白強要、そこから生じる冤罪の危険性など捜査のあり方が問われて久しいですが、今なお、厚労省郵便不正事件(村木事件)や足利事件、袴田事件等でこうした捜査手法が冤罪につながる危険を持つことが次々と明るみになっています。

本年6月までには裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件について取調べ全課程の録音・録画がなされる予定ですが、いまだ対象となる事件は限定されており、自白強要等を完全に防ぐには到底十分ではありません。

そこで、当委員会としては取調べの全面的可視化の実現に取り組んでいきます。

4 これからの課題を担う刑事弁護委員会の体制について

当委員会では、当会執行部、関連委員会及び全会員の協力を得て、より充実した刑事弁護体制の構築と被疑者・被告人の迅速適切な権利擁護のため、一層強力に取り組みたいと考えています。