決議

伊都橋本地域における和歌山地方・家庭裁判所支部の新設及び和歌山地方・家庭裁判所御坊支部における裁判官の常駐を求める決議

2014年(平成26年)2月22日
和歌山弁護士会

2001(平成13)年6月12日に発表された司法制度改革審議会意見書において、「国民の利用しやすい司法」「国民のための司法」「国民の参加する司法」に向けての諸改革が提起された。「国民の利用しやすい司法」の実現のためには、地域住民がいつでも容易に裁判所を利用できる体制の確立、地家裁支部地域の司法の充実が極めて重要である。しかし、現実には全国的に地家裁支部の機能の縮小の問題点が指摘されている。  

当会は、2012(平成24)年10月に発表した第2次和歌山地域司法計画において、和歌山の司法の現状と課題を明らかにしたが、とりわけ、以下の2点は、地域司法の充実・和歌山県民の裁判を受ける権利の観点から、放置できない喫緊の課題であり、最高裁判所に対し、早急に実現を求める。

1 和歌山県北東部の伊都橋本地域に、和歌山地方・家庭裁判所支部を新設すること。

2 和歌山地方・家庭裁判所御坊支部に、裁判官を常駐させること。

また、当会は、和歌山県民の裁判を受ける権利を真に保障し、地域司法の充実を図るため、上記2点の実現に向けたあらゆる課題にも取り組むことを決意する。

(決議の理由)

第1 はじめに

 2001(平成13)年6月12日に発表された司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という)は、「司法制度改革の3つの柱」の第1として、「国民の期待に応える司法制度とするため、司法制度をより利用しやすく、わかりやすく、頼りがいのあるものとする」ことを挙げ、「国民の期待に応える司法制度の構築(制度的基盤)」を目標にした。  

 しかし、意見書が目指した「利用しやすく、わかりやすく、頼りがいのある」司法は、その後の司法改革によっても実現されたとは言い難い。「国民の期待に応える司法制度」を実現するためには、国民の身近に裁判所が存在することが必要である。裁判所を含めた司法制度は、道路や上下水道と同じように、日常生活を送る上で不可欠なインフラというべきであって、地域の実情にあわせて適正に配置され、その機能が充実される必要がある。

 日本国憲法は、法の下の平等、裁判を受ける権利を保障している。国民一人一人が日本のどこに住んでいようとも居住地域の違いによって著しい不平等はあってはならないものである。近くに裁判所が存在せず利用するのが困難であったり、裁判所が存在しても開廷日が少なかったり、取り扱われる事件が限定されているようでは、裁判を受ける権利は無意味なものとなりかねない。国にはこのような著しい不平等が生じないように裁判所の適正配置とその充実に努める義務がある。

第2 伊都橋本地域に和歌山地家裁支部を新設する必要性

 伊都橋本地域には、かつては伊都郡かつらぎ町に和歌山地家裁妙寺支部が設置されていたが、1990(平成2)年、最高裁判所は、「裁判所支部の適正配置」の名のもと、当会や地元自治体の強い反対にもかかわらず、これを廃止した。

 現在、伊都橋本地域には、和歌山家裁妙寺出張所、妙寺簡裁、橋本簡裁があるのみであるが、和歌山家裁妙寺出張所は、基本的には「受付出張所」であって、月に1回、裁判官や書記官等が出張して調停が行われているにすぎず、その利便性は非常に低いといわざるを得ないし、簡裁では取り扱われる事件は訴額140万円以下という限定がある。

 伊都橋本地域には現在、約10万人の住民がいるところ、地裁管轄の裁判や家裁の裁判や調停、審判を受けるためには、基本的に和歌山市の和歌山地家裁本庁まで行かなければならないが、電車であれば、朝夕を除いて概ね1時間に1本程度しかないJR和歌山線を利用するしかない。自動車を利用する場合でも橋本市からは片道約1時間30分を要する。

 このように、伊都橋本地域の住民にとって、紛争解決のために裁判所を利用することは、裁判所までの時間的負担や交通費という経済的負担という大きな障壁があるのが現状である。場合によっては、裁判所を利用することを躊躇することにつながりかねない。これでは、伊都橋本地域の住民にとって、裁判を受ける権利は画餅に帰する。

 そのため、現在、橋本市を中心として、「裁判所橋本支部設置推進協議会」が設立され、和歌山地家裁の支部を設置することを求める住民の声が高まっている。

 このように、地域住民の裁判を受ける権利を真に保障するという観点から、伊都橋本地域に地家裁支部を新設(復活)することが必要不可欠である。

 和歌山県において、東海・東南海・南海地震(南海トラフ地震)が発生する可能性が危惧されているところである。和歌山地家裁本庁及び3つの支部(御坊・田辺・新宮)はいずれも沿岸部に位置しているところ、万一、東日本大震災と同規模あるいはそれ以上の規模の津波が発生すれば、これらの裁判所が被災して、和歌山県内の司法機能が停止する可能性が皆無とは言えない。現在伊都橋本地域には2つの簡裁があるものの、そのような事態において、簡裁において対応することは人的物的に困難である。伊都橋本地域に和歌山地家裁に支部が設置されていれば、一時的に本庁や他の支部で行うべき業務を代行することも不可能ではない。

 このように、伊都橋本地域に和歌山地家裁支部を新設することは、来るべき大震災への備えという観点からも必要不可欠なものである。  

第3 御坊支部への裁判官常駐の必要性

 2010(平成22)年8月末現在、日本全国で裁判官の常駐していない地家裁支部は46カ所あり、和歌山地家裁御坊支部もその1つである。裁判官は、月曜と木曜の週2回、田辺支部から御坊支部に填補されるのみである。

 そして、裁判官は、週2日の執務日に地裁と家裁の両業務を並行して担当するが、地裁において証人尋問が実施され、同時に家裁の調停が行われていて調停が成立する場合には、裁判官は家裁の調停官を兼ねているため、調停成立手続のために、尋問を途中で中断せざるを得ない事態もある。

 逆に、家裁の調停の側から見れば、同時に地裁の証人尋問が実施されていれば、調停委員と裁判官である調停官とが適宜合議をすることができないため、調停を成立させるためには、民事事件の終了を待たなければならないという事態も生じている(不調による調停終了の場合も同様である)。

 保全事件や保護命令事件等緊急性があり迅速な対応が必要な事件についても、裁判官が常駐していないため、申立直後の迅速な対応が期待できず、これらの事件を取り組める体制になっているとは言い難い。これでは裁判を受ける権利や法の下の平等を保障する日本国憲法が予定する本来の司法の姿とは言い難い。

 したがって、上記の問題点を解決し、御坊支部の機能を充実させるためにも、御坊支部に裁判官を常駐させることが必要不可欠である。

第4 当会の取り組み

 当会は、和歌山県内の司法が、地域住民・地域社会の期待に応えるものとなるよう、地域住民と連携して上記2つの課題に取り組む。また、日本弁護士連合会、近畿弁護士会連合会とともに、最高裁判所、法務省、政府その他関係機関や県内の地方自治体に呼びかけて、それらの課題の実現に向けての運動を積極的に展開していく。

以上