意見書

雑賀崎沖埋立計画についての意見書

1999年2月
和歌山弁護士会

意 見 の 趣 旨

和歌山県は、和歌山下津港本港沖(雑賀崎沖)地区埋立計画を即時凍結し、環境影響評価法にもとづく評価手続を実施するとともに、情報の全面開示と住民参加の手続の下で、①大水深バースの必要性(需要予測)、②廃棄物処分場確保の必要性と投棄場所を本地区とせざるを得ない事由、③景観・自然環境に与える影響等について白紙から検討し直し、本港地区周辺の港湾将来構想の全面的見直しを含めた抜本的な計画の変更(撤回を含む)をすべきである。

意 見 の 理 由

1、和歌山県が立案した和歌山下津港本港沖地区埋立計画は、「物流需要の増大、船舶の大型化に対応する大水深(14m)多目的外貿ターミナルを確保する」ことと「建設残土受入空間を確保する」ことを目的として、平成20年代前半の目標年次までに本港沖の117.2ヘクタールの海面を埋め立てるというものである。

2、しかし、現時点では、14m水深の岸壁を必要とするような外貿用大型船舶の停泊を必要とする将来の物流需要についてその予測根拠が示されていない。

それどころか、本港内の13mバースの埠頭用地ですら1987年に埋立に着手しながら未だに完成されず、利用に供されていない状況であり、現在外貿用コンテナ船は中埠頭の10m水深バースを利用して、韓国との航路が週2便就航しているにすぎない。

また、建設残土の受入先の選定についても、他の地区との比較検討をした形跡がなく、この地区が廃棄物処分場として最適地であるという根拠も何ら示されていない。さらに、この海面に投棄される廃棄物が「建設残土」だけに限定される保障も示されていない。

3、また、本計画策定段階において、住民に一切計画内容も示されず、審議過程でも情報開示が不十分で、しかも地域住民の参加手続は採られていない。

1992年6月14日に国連で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」の第10原則は「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適正に入手し、そして、意思決定過程に参加する機会を有しなければならない。」と定めており、市民参加と情報公開は世界的な趨勢となっている。 

4、さらに、本件埋立対象地区は、古来より和歌等に詠まれた景勝地であり、海岸部一体は、瀬戸内海公立公園の第3種特別地域に指定され、大島、中之島、双子島は第1種特別地域に指定されている。そして、瀬戸内海環境保全特別措置法13条1項に基づく基本方針で「埋立による自然景観への影響の度合いが軽微であること、自然公園法による特別地域(その周辺を含む)での埋立ては極力避けること」と定められている。そのため、環境庁も本埋立計画は、上記指針に抵触するとの意見を出している。

5、ところが、県は、本港湾計画について本年6月から施行される環境影響評価法による調査及び評価手続を採ろうとせず、法施行前に計画の確定をさせようと躍起になっている。その上、県が作成した景観のフォトモンタージュ写真は、超広角レンズを用い、約150度の視野によって生み出された構図になっているが、人間の視野は左右60度(計120度)であり、人間には見ることのできない「景観シーン」を提示してその印象を説明しようとしており、その他のアセスメントもきわめて不十分なものである。

6、よって、当会は、本計画を即時凍結し、環境影響評価法にもとづく評価手続を実施し、情報の全面開示と住民参加の手続の下で、大水深バースの必要性(需要予測)、海面投棄以外の廃棄物処分場選定の余地及び景観・自然環境に与える影響等について白紙から議論をし、本港地区周辺の港湾将来構想の全面的見直しを含めた抜本的な計画の変更(撤回を含む)をすべきと考える。

以 上