声明・談話

組織的犯罪対策三法案についての会長声明

1998年(平成10年)7月15日
和歌山弁護士会
会長 田中 昭彦

組織的犯罪対策三法案は、去る3月13日に政府から国会に提出され、6月18日の衆議院法務委員会において継続審議となった。

政府は、立法目的として、オウム真理教の一連の犯罪や暴力団などによる覚せい剤犯罪などの動向に鑑み、こうした犯罪に対処する法律が不可欠であり、国際的にも協調した対応が必要であると説明している。しかしながら、我が国の犯罪状況において、果たしてそのような必要性があるのかという立法事実上の疑問があり、未だこの問題の検討が不十分である。そして、これらの三法案のうち、とりわけ「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」については、通信の秘密の不可侵を明文で規定する憲法21条第2項に反する疑いが強いほか、幸福追求権を保障する憲法13条の重要な内容をなすプライバシ-権を侵害する危険が高いものとなっている。また、同法案は、予備的盗聴、事前盗聴、別件盗聴を認めているが、これは、令状に場所と物の特定を要求する令状主義及び適正手続の保障など、憲法上の刑事諸原則の要請を満たしているとは認め難い。更に、同法案は広汎な犯罪を対象範囲としているが、現在の令状実務の現状からすれば、裁判所による濫用の防止は期待できず、一層の疑念を禁じ得ないところである。

通信の秘密の不可侵は、表現の自由、結社の自由、さらに内心の自由にも深くかかわるが故に強く保障されているものであるが、通信傍受を安易に認めることは、将来にわたる国民の自由権の保障に禍根を残すことになりかねない。 また、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」案についても、犯罪マネ-ロンダリングの処罰規定などの一連の規制が広範に過ぎ、もしくは規定が曖昧であるなどの問題が多い。

以上のように、現在継続審議中の組織的犯罪対策三法案は、多くの疑問点や問題点があるうえ、国民の基本的人権の侵害につながるおそれがあり、濫用の危険が大きいといわざるを得ない。

よって、当会は、この三法案の立法化には強く反対する。

以 上