声明・談話

組織犯罪対策3法案に関する会長声明

1999年(平成11年)6月11日
和歌山弁護士会 会長 山口 修

本年6月1日、衆議院本会議において「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案」、「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」及び「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案(通信傍受法案)」の3法案が自由民主党、自由党、公明党各委員などの賛成多数により可決の上、参議院へ送付され、同月9日から参議院での審議が始まっている。

3法案の主な内容は、組織的な犯罪への刑の加重、犯罪収益などによる事業経営の支配を目的とする行為などの処罰及び犯罪捜査のための通信傍受(いわゆる盗聴)を認めようとするものである。

日本弁護士連合会は、平成9年5月23日の定期総会において、当時、法務省刑事局が審議のための参考素材として示した「組織的な犯罪に対処するための刑事法整備要綱骨子に関する事務局参考試案」の問題点を指摘し、立法化に反対する決議を行い、平成10年2月3日付「『組織的な犯罪に対処するための刑事法要綱骨子』に関する意見書」において詳細に問題点を指摘し、その是正を求めてきた。

ところが、平成10年3月13日、政府はほとんど上記要綱骨子のまま法案として国会に提出し、衆議院本会議で可決された3法案はまだ日本弁護士連合会の指摘してきた問題点を是正していないといわざるをえない。ただ、通信傍受法案については、傍受対象犯罪の限定、令状発付裁判官を地裁裁判官に限定、立会人の常時立会の義務付け、いわゆる別件傍受の対象犯罪を限定するなど一定程度の修正がなされたものの、それでもまだ基本的問題点が残されたままである。すなわち、将来の犯罪に対する傍受や該当性判断のための傍受等が認められており、別件傍受もまだ広範であって、傍受期間も最大30日間の長期間が許容されており(しかも、特別事情があればさらに傍受可能)、犯罪事実と無関係な会話が傍受された場合には、傍受記録が作成されないため、通信の当事者への事後通知は全く行われず、不服申立も極めて限定的であるなど憲法31条の適正手続や憲法35条の令状主義の要請を到底満たしているとはいえない。現在の犯罪捜査において通信傍受の必要性を必ずしも否定するものではないが、通信の秘密は民主政治を支えるものとして憲法21条で保障されている重要な基本的人権である。警察は、過去において日本共産党幹部宅盗聴等組織的に違法な盗聴行為を行った前歴があり、このような違法行為を取り締まるべき警察が、憲法で保障されている重要な基本的人権である通信の秘密を違法に犯したことに対して当然起訴すべき重大性があるにもかかわらず、検察庁は国民から付託されている職責を全うせずにこれを不起訴処分とした事実に照らし合わせると、通信傍受はその濫用阻止のための十二分の濫用防止手続がない限り認められるべきでない。濫用しないことを信頼するのではなく、必ず濫用されるとの前提で、濫用できない法制度にすべきである。この視点に立てば、本法案は濫用抑止制度が十分でない。

また、このように基本的人権を侵害するおそれが大きい通信傍受について、衆議院での審議が十分なされず、公聴会も開催されないまま、衆議院法務委員会や衆議院本会議で可決され、参議院へ送付されたことも極めて遺憾というほかない。

さらに、組織的犯罪への刑の加重及び犯罪収益に関する処罰の問題は、現行法でも各犯罪態様に応じた処罰が十分可能であり、加えて「団体」、「組織」等の構成要件の不明確性等を考慮するとき、上記立法の必要性については極めて疑問であるうえに、通信傍受法案の審議に紛れて十分な法案審議がなされたとは言い難い。

当会としては、基本的人権擁護の立場から、現在のままの3法案が立法化されることに強く反対するとともに、今後、拙速を避け、参議院において十分な審議が尽くされることを強く望む。

以 上