声明・談話

「有事法制」法案に反対する会長声明

平成14年6月11日
和歌山弁護士会 会長 辻本 圭三

本年4月17日、政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(有事法制三法案という)を上程した。

しかし有事法制三法案には、憲法原理に照らし、少なくとも以下に指摘する重大な問題点と危険性が存在する。

1 有事法制三法案は、政府が「武力攻撃事態」と認定した場合に、自衛隊による武力行使を認めるとともに、部隊の活動を円滑・効果的に行うための措置を広く認めるものである。

ところが「武力攻撃事態」の概念は、我が国に対する外国からの「武力攻撃が発生した事態」だけでなく、「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」までをも含む、極めて曖昧、無限定なものであり、そのため政府の判断により、どのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能になり、その濫用の危険性が存する。

2 しかも「武力攻撃事態」と認定されれば、私有財産の収用・使用、軍隊・軍事物資の輸送や戦傷者治療等のための役務の強制、交通、通信、経済等の市民生活・経済活動の規制をすることができるなど、市民の基本的人権を大きく制限するものであり、基本的人権保障原理を変質させる重大な危険性を有する。

3 曖昧な概念の下で「武力攻撃事態」と認定され、自衛隊が行動を起こすことは、憲法前文や第9条の定める平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持及び交戦権の否認に抵触するのではないかとの重大な疑念がある。

また、周辺事態法では自衛隊が米軍の軍事活動の後方地域支援活動等を行うことを予定しているが、この周辺事態法と連動して、米軍の戦争等に参加することにより、我が国が攻撃目標にされその安全が脅かされる危険があるとともに、米軍との共同行動は、個別的自衛権の枠を超えた「集団的自衛権」の行使に大きく踏み込むこととなるおそれが強い。

4 内閣の定める「対処基本方針」に行政機関、地方公共団体、指定公共機関等を従わせる責務を課し、国民はこれに協力する義務を有することを定めるものであり、その権限は内閣総理大臣に集中されることになっている。しかもこれに対する国会の承認は事後でも可能とされ、国会による修正権限が明らかでないなど、国会によるコントロールは十分なものとは言えず、国民主権の原理に反する。

5 日本放送協会(NHK)その他の報道機関を指定公共機関として、内閣総理大臣の指示によって「対処措置」を実施する責務を課しているが、これはまさしく報道機関に対する統制を内容とするものである。これは国民の知る権利を侵害するのみならず、メディアによる真実の報道と国民の批判を封ずるものであり、国民主権の基盤を崩壊させる危険を有する。

以上のように、有事法制三法案は、平和主義、基本的人権保障、国民主権による統治という憲法の基本原理に関する重大な疑念がある。

よって、当会は、この法案の成立に反対するとともに、同法案を廃案にするよう求めるものである。