声明・談話

共謀罪の与党修正案に反対する会長声明

2006年(平成18年)5月23日
和歌山弁護士会
会長 岡田 栄治

衆議院法務委員会において、共謀罪新設法案(犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案)の審議が再開され、与党は「修正案」を提出していたが、5月12日にはさらに「再修正案」を提案し、今国会での成立を目指している。

しかしながら、提出された「修正案」「再修正案」は、以下に述べるように、当会が2005年11月24日付「共謀罪の新設に反対する会長声明」において指摘した問題点について、ほとんど解決されないまま残されている。

1 共謀罪は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」に基づき、国内法化を図ったものであるにもかかわらず、「修正案」においても「性質上越境的なもの」を要件としておらず、対象となる犯罪が刑罰の重さだけで規定されているため、約600にも及ぶ国内犯罪に適用される規定のままである。「再修正案」は、この点について何らの修正も加えていない。

2 「修正案」は、「共同の目的が犯罪を実行することにある団体にかかわるものに限る」との要件を付していたが、「再修正案」では、「組織的な犯罪集団」と明示した。しかし、「組織的な犯罪集団」の定義は、「その共同の目的が犯罪を実行することにある団体」との従来の定義を変えておらず、専ら犯罪を目的とすることや過去に犯罪を遂行した等の限定はなされていない。従ってその認定は、「修正案」と同様に警察等の主観的判断で濫用され、普通の労働団体や市民団体にも適用される可能性が残されており、共謀罪の適用範囲を限定したことにはならない。

3 「修正案」は、共謀に加えて「犯罪の実行に資する行為」が必要であるとしていたが、この概念は犯罪の予備行為よりもはるかに広い概念であって、共謀罪の適用場面においてほとんど歯止めとはならないものであった。この点、「再修正案」は、「犯罪の実行に資する行為」の要件を「犯罪の実行に必要な準備その他の行為が行われた」と修正した。

しかし、「準備その他の行為」にどのような行為が含まれるのか明確でなく、認定者の主観的な判断でいかようにも拡大解釈が出来る。また、この「準備その他の行為」はあくまで処罰要件であって、その有無にかかわらず、捜索や逮捕・勾留等の強制捜査を開始することは妨げられない。

従って、重大な犯罪に限定して予備的な「準備行為」があって初めて犯罪とされてきた我が国刑法の基本原理を根本的に転換するものである点に変わりはない。

4 以上のように共謀罪は、与党「修正案」「再修正案」においても、刑法の人権保障機能を失わせるものであって、憲法第19条及び第31条に違背するものである点は、何ら是正されていない。

従って、現在の与党案は、仮に濫用されれば将来に禍根を残すものであり、そのため、国民の間で深い疑念の声が広がっている。

そこで、条約の意味、刑法の人権保障機能、このような法律を必要とする立法事実の有無など基本に立ち返り、慎重にも慎重を期して審議すべきであり、当会は、「政府案」「与党修正案」「与党再修正案」の成立に対して、改めて強く反対するものである。