声明・談話

弁護人への脅迫行為に抗議する会長声明

2007年(平成19年)9月4日
和歌山弁護士会
会長 中川 利彦

現在、広島高等裁判所において、山口県光市で当時18歳の少年が主婦とその幼い長女を殺害したとされる事件の審理が行われている。

この事件の裁判に関して、本年5月下旬に日本弁護士連合会宛に「元少年を死刑に出来ぬなら、元少年を助けようとする弁護士たちから処刑する」などと記載された脅迫文と模造銃弾様の物が送られてきた。

上記事件の弁護人に対するこれらの脅迫行為は、憲法で定められた被告人が適正な手続によって刑事裁判を受ける権利を実現するために必要となる弁護人の弁護活動を、暴力や脅迫によって否定しようとする極めて卑劣な行為であり、断じて許されるものではない。当会は、このような行為に対して強く抗議するとともに、暴力や脅迫から弁護士とその弁護活動の自由が守られるべきことを強く表明する。

確かに、上記事件は、母親と幼い子の命がその自宅において失われたという大変痛ましい事件であり、残された遺族の心情は察するに余りある。一、二審判決が無期懲役であったことからも社会の関心は高く、またメディアも大きく報道しているところである。

しかしながら、事件の内容や被害の程度にかかわらず、被告人が弁護人を依頼し、その弁護活動を受ける権利は十分に保障されなければならない。憲法37条3項は、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。」と規定し、被告人の弁護人依頼権を保障している。被告人が適正な手続により刑事裁判を受けるためには、いかなる場合でも弁護人を依頼する権利が保障されなければならない。そして、被告人の弁護人依頼権は、弁護人の自由な弁護活動が守られることによって、初めて十分に機能することになる。

また、被告人の弁護人選任権及び弁護人が自由な弁護活動を行う権利は、人類が過去の刑事裁判の歴史の中からその叡智をもって生み出した権利であり、国連の「弁護士の役割に関する基本原則」は、全ての人が弁護士の援助を受ける権利を有することを定めるとともに、弁護士がその職責を果たしたことによってその安全が脅かされるときには各国政府が弁護士の安全を保障するように求めていることも銘記されるべきである。

当会は、弁護士及び弁護活動に対する暴力や脅迫は、被告人の弁護人による弁護を受ける権利の否定であり、ひいては憲法の定める人権擁護の思想に対する重大な挑戦であると考え、上記事件の弁護人への脅迫行為に断固抗議し、本声明を表明するものである。