声明・談話

改正少年法に関する会長声明

2008年(平成20年)10月17日
和歌山弁護士会
会長 山西 陽裕

声明の趣旨

被害者等の少年審判への傍聴等を許可する「改正」少年法の運用にあたっては,少年法の目的・理念を損なうことのないよう,厳格な運用を求める。

声明の理由

1 平成20年6月11日,少年法の一部を「改正」する法律案が可決成立した(法22条の4ないし6)。この「改正」少年法は,殺人事件等一定の重大事件の被害者等から申出がある場合に,家庭裁判所が少年審判の傍聴を許可することができる制度を創設するものである。

2 そもそも少年法は,少年の可塑性に鑑みて,「少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」ことを目的とし(法1条),かかる目的を達するため,少年審判については「懇切を旨として,和やかに行う」(法22条1項)ことを求めるとともに,「これを公開しない」(同条2項)と規定しているのである。
確かに,被害者等が,事件の内容や少年審判の様子を知りたいと希望することは,自然な感情であり,近時の成人刑事事件における被害者等の権利・利益の擁護に関する刑事訴訟法等の改正の趣旨にも鑑みれば,少年審判においても,被害者等の権利・利益の保護については,一定の配慮がされるべきである。
しかしながら,被害者等の権利・利益の保護を重視することにより,一方で,少年法の本来の目的・理念が損なわれるようなことは,あってはならない。

3  被害者等が少年審判を傍聴する場合には,少年法の目的である少年の健全な育成について,次のような問題が生ずることが懸念される。
即ち,一般に,少年は言葉による自己表現やコミュニケーション能力が不十分であり,被害者等が少年審判を傍聴した場合,このように成長発達途上にある未熟な少年が過度に萎縮し,事件の内容や非行時の心理状態,少年審判における率直な気持ちなどを話しづらくなり,裁判官や付添人の質開に対して的確に応答できなくなるほか,被害者等が傍聴している状況では,適切な処遇選択に不可欠な少年の成育歴や家庭環境といったプライバシーに深くかかわる事項を取り上げることが困難となり,適正な事実認定や処遇に結びつかないおそれがある。
また,本来少年審判は,前記少年法の目的に鑑み,少年の未成熟さを考慮し,少年の心身の状況に相応しい対応をするべく,単に少年への責任追及のみならず,少年自らが問題を解決できるように援助するという教育的・福祉的な機能を有しているところ,被害者等が傍聴することになれば,ややもすれば少年の責任追及を中心としたものとなりかねず,少年審判のもつ教育的福祉的機能が損なわれるおそれがある。

4 今回の「改正」少年法の国会審議の過程で,被害者傍聴の要件として,「少年の健全育成を妨げるおそれがない」ことが明記されたこと,12歳未満の少年の事件については傍聴対象事件から除外したこと,12歳及び13歳の少年の事件については「精神的に特に未成熟であることを十分考慮しなければならない」とされたことなどの修正がされたことは一定の意義がある。
しかしながら,前記懸念される問題点に鑑みれば,なお問題点が十分に解消されたとはいい難い。

5 被害者等の権利・利益の擁護の要請については,2000年少年法「改正」によって導入された,被害者等による記録の閲覧・謄写(法5条の2),被害者等の意見聴取(法9条の2),審判の結果通知(法31条の2)などの各規定を被害者等に周知させるよう努力し,被害者等が活用しうる支援体制を整備することや,今回の「改正」法が規定する,家庭裁判所が被害者等に対して審判期日における審理の状況を説明する制度を適切に活用することにより,少年法が本来目的としている少年の健全・育成との調整を図るべきである。

6 したがって,当会は,被害者等の傍聴の許可にあたっては,少年の情操を保護し,その健全育成を図るという少年法の本来の目的・理念を損なうことがないよう,厳格な運用を行うことを求める次第である。