声明・談話

司法修習生の修習資金貸与制実施の延期を求める声明

2009年(平成21年)9月17日
和歌山弁護士会
会長 月山 純典

1 裁判所法の改正により、平成22年11月1日から、司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)に代えて、修習資金を国が貸与する制度(貸与制)の実施が予定されている。ところで、この法改正に際しては、衆参両議員共通の付帯決議がなされ、「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことがないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。

2  現状を見ると、平成16年4月の裁判所法改正時と比べて事情が変わり、正に上記附帯決議が懸念した事態となっている。
現在法曹養成の実質的入口は法科大学院であるところ、質、量ともに豊かな法曹を確保するためには法科大学院に多彩で有為な人材が入学することが必要である。しかしながら、法科大学院での勉学のために多大の出費を要するにもかかわらず、法科大学院の定員数の関係で司法試験の合格率が低いなどのリスクから、社会人経験者などの多様な人材が法曹の道を断念するという事態が発生し、志願者数が減少を続けている。このような状況の中で、司法試験に合格し、司法修習生になると職務専念義務によりアルバイトも行うこともできず、そこへ現行の給費制が廃止されれば、資力の蓄えの無い者は経済的に一層困難となり、更には急激な法曹人口増による就職の困難化もあって、多くの有為な人材が法曹の道を断念してゆくことに拍車をかけることになる。

3 そもそも法曹は、社会の中において法の支配を実現するという公共的任務を担っている。このことは、公務員たる法曹である裁判官や検察官に限らず、一民間人である弁護士にも当てはまることであり、弁護士法第1条第1項に、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定され、第2項に、「弁護士は、前項の使命に基づき、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」とされていることからも明らかである。現に数多くの弁護士がこの理念に立って、プロボノ活動に尽力しているし、当会も含めた全国各地の弁護士会が、人権擁護や消費者保護、環境保全をはじめとする公益的性格の活動に日常的に取り組んでいる。  司法制度改革審議会は、法曹に対し、「社会生活上の医師」としての機能を期待する旨明言してきたが、そうであるならばなおさら、その人的基盤の基礎を作る法曹養成は、単なる法曹の個人的受益の枠を超えた社会的要請に基づくものだと言わざるを得ない。

4 ところで、前記の裁判所法改正と同時期に、医師国家試験合格者には2年間の臨床研修及びアルバイト禁止の研修専念義務が課せられたが、その義務化に対応して、研修医には国庫からの援助により研修に専念できる程度の給費が支給されることになった。これは、医師に期待される役割の公共性に基づくものである。  従って、法曹の社会的役割・公共性に照らせば、貸与制の実施は、医師の養成制度との均衡の点からも問題があり、研修医と同様に、国家試験である司法試験合格後の司法修習生に対し、修習に専念できる程度の給費を支給することは、十分に合理性を有するものといえる。

5 よって、当会は、司法修習の給費制の復活も視野に入れた法曹養成制度全体の財政支援の在り方について改めて協議・検討を行うとともに、当面、修習資金の貸与制実施を相当期間延期し、さらには給費制を継続するために必要な措置を講ずることを強く求めるものである。