声明・談話

死刑執行に関する会長声明

2009年(平成21年)9月30日
和歌山弁護士会
会長 月山 純典

 本年7月28日,大阪拘置所において2名,東京拘置所において1名の死刑確定者(合計3名)に対して死刑が執行された。

 当会は,死刑執行に関して既に昨年2月14日,同年9月9日に会長声明を出し,政府及び法務大臣に対して,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし,死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間,死刑の執行を停止するよう要請する会長声明を発表した。しかしながら,昨年は15名の死刑執行がなされ,本年になって1月29日に4名の死刑執行がなされたことに続き,今回3名の死刑執行がなされた。

 わが国の死刑制度は,国際社会から非常に厳しく批判されている。国際人権(自由権)規約委員会は,日本の人権状況に関する総括所見において(昨年10月30日),日本に対し,世論調査の結果にかかわらず,死刑の廃止を前向きに検討し,市民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきであることを勧告するとともに,死刑執行の事前告知,必要的上訴制度の導入,再審等による執行停止など抜本的な制度改革を行うことを求めた。さらに,昨年12月8日の国連総会本会議において,一昨年に引き続き死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数の賛成により採択された。現在,死刑存置国は58カ国,事実上の廃止を含めた死刑廃止国は139カ国にのぼり,死刑廃止が国際的な潮流になっている。このような国際的な潮流に照らすとわが国の死刑執行はもはや異常ともいえるものであって,国際社会からの孤立を深めているといわざるをえない。

 わが国では,4件の死刑確定事件(免田・財津川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し,死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。本年6月23日,東京高等裁判所は,幼女誘拐殺人事件について無期懲役刑が確定していたいわゆる足利事件においてDNA再鑑定に基づき再審開始を決定したが,これは重大事件について,今なお冤罪が存することを示している。そして,足利事件と同様の精度の低いDNA鑑定によって死刑判決を科され,昨年10月28日に死刑執行がなされたいわゆる飯塚事件にも非常に注目が集まっている。無実の人が冤罪によって死刑執行がなされてしまった場合,それこそ取り返しがつかない。

 また,本年5月21日から裁判員制度が施行された。死刑制度が存置された現状では,事案によっては一般市民が裁判制度を通じて死刑判決の言い渡しに関わる可能性も生じるようになった。当会は本年7月11日に死刑制度を考える企画を実施したが,多数の市民が参加し,死刑制度に関する関心の深まりが感じられた。かかる現状において死刑制度の運用と実態を正確に事実として知ることが重要であり,死刑制度についての情報開示が必要であるが,これはまだまだ不十分であるといわざるをえない。

 当会は,日本弁護士連合会及び当会を含む各単位会による死刑執行の停止を求める度重なる会長声明にもかかわらず,なお繰り返されている一連の死刑執行に対し,あらためて強い遺憾の意を表明するとともに,政府及び法務大臣に対して,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行うまでの一定期間,死刑の執行を停止するよう,重ねて強く要請するものである。