声明・談話

取調べの可視化を求める会長声明

2010年(平成22年)4月21日
和歌山弁護士会
会長 冨山 信彦

 宇都宮地方裁判所は,2010年(平成22年)3月26日,1990年(平成2年)5月に栃木県足利市内で発生した幼女誘拐・殺人・死体遺棄事件(いわゆる足利事件)の再審請求事件において,菅家利和さんに対し,無罪判決を言い渡した。
 本件判決においては,DNA鑑定の証拠能力を否定したのみならず,菅家さんの捜査段階及び公判廷における自白の信用性を完全に否定し,虚偽であることが明らかであると断定するとともに,判決宣告の後,裁判官が菅家さんに対して謝罪をした。

 しかし,無罪の言渡しがあったからといって,菅家さんが失った17年半を取り戻すことは出来ない。えん罪事件は国家による最大かつ究極の人権侵害であり,二度とあってはならない。
 そこで,まず,このようなえん罪を招いた捜査手法や刑事裁判手続に関して,虚偽の自白を迫った捜査官はもちろんのこと,すべての司法関係者が真摯に反省すべきである。
 また,足利事件においては,誤ったDNA鑑定のみならず,捜査段階の取調べにおいて作成された自白調書が有罪認定の証拠とされた。菅家さんが無実であったことが明白になった現在,このことは,たとえ無実の人であっても,密室における違法・不当な取調べにより,虚偽の自白に至ってしまうおそれがあることを示している。

 現在,取調べは密室の中で行われ,取調べ過程を事後的に客観的に検証する方法はない。このことがえん罪事件を生み出す大きな要因となっていることは明らかである。そこで,取調べ過程を事後的に客観的に検証するための手段が必要不可欠といえるが,そのための手段としては,取調べの可視化(取調べの全過程の録画)が客観的かつ最も有効・適切である。
 よって,当会は,取調べ全過程の可視化の早急な実現を要求する。