声明・談話

金利規制及び総量規制の緩和に反対する会長声明

2012年(平成24年)8月8日
和歌山弁護士会
会長 阪本 康文

平成18年12月,国会において改正貸金業法が全会一致で可決され,平成22年6月18日に完全施行されてから,2年が経過した。

高金利,過剰融資等により深刻化した多重債務問題に対する抜本的な改革を目指して成立した改正貸金業法は,「上限金利の引き下げ」,「総量規制の導入」を柱とする画期的なものであった。

そして,その成果は,5社以上の借入れを有する多重債務者が法改正時の230万人から44万人に激減し,自己破産者は17万人から10万人に減少,多重債務を原因とする自殺者は半減するなど,具体的な数字として表れている。

よって,改正貸金業法は極めて順調にその効果を上げていると評価できる。

それにもかかわらず,昨今,一部の国会議員から,「総量規制により正規業者から借入れできず,ヤミ金から借入れたことでのヤミ金被害が増加している」,「零細な中小企業の短期融資の需要がある」などとして,総量規制の撤廃,利息制限法制限金利と出資法上限金利の引き上げを内容とする「再改正」を求める意見があがっている。

しかし,ヤミ金被害が増えていることを示す具体的事実は存在せず,当会の内外からもそのような声は聞こえてこない。

また,零細な中小企業の短期融資のために上限金利の引き上げを行うことは,逆に資金繰りに苦しむ中小企業に対して,高利の負担を上乗せするだけであり,上限金利を引き上げる理由とはなりえない。

逆に,総量規制の撤廃や上限金利の引き上げを行えば,多重債務者を増加させ,増加した多重債務者を狙うヤミ金被害を拡大させることにもなりかねない。このことは,金利規制を緩和したアメリカで,年間200万人もの自己破産者や高金利被害が多発し,同じく金利規制を撤廃した韓国で多重債務問題が深刻な社会問題となったことから明らかである。

結局,改正貸金業法の「再改正」の動きは,具体的な根拠もなく,改正後の2年間で得られた成果を無に帰そうとするものであり,甚だ疑問であるといわざるを得ない。

ヤミ金被害の拡大防止や,零細な中小企業の支援は,高金利,過剰融資等により深刻化した多重債務問題を再燃させかねない「再改正」によるものではなく,ヤミ金取締りの強化や,高利に頼らなくても生活できるセーフティネットの再構築,相談・支援体制の充実などによるべきである。

よって,当会は,改正貸金業法の成果をより充実させるべく,今後も法律相談体制の充実や一般市民に対する啓発活動に積極的に取り組むことを確認するとともに,改正貸金業法の成果を無にしてしまいかねない金利規制・総量規制の緩和を目指す「再改正」に強く反対する。