声明・談話

「障害者総合支援法」成立を受けて改めて障害のある当事者の権利を保障する総合的な福祉法制の実現を求める会長声明

2012年(平成24年)9月12日
和歌山弁護士会
会長 阪本 康文

本年6月20日、国会で、「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」(以下「本法律」という。)が成立した。

本法律は、障害者自立支援法(以下「自立支援法」という。)を一部改正し、名称を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下「総合支援法」という。)に改めるものである。

2005年10月に成立した自立支援法は、障害が重ければ重いほど負担増を強いる応益負担制度を導入し障害のある人の必要に応じたサービスの利用を困難にさせ、地域での自立した生活や社会参加に大きな影響を与えるなど、障害者の生きる権利を保障する上で大きな問題があった。

和歌山地方裁判所を含む全国14か所の地方裁判所に自立支援法違憲訴訟が提起され、2010年1月7日、国は、障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団との間で、自立支援法を2013年8月までに廃止し新たな総合的な福祉法制を実施することを確約する「基本合意文書」を交わし、同合意を確認する内容の訴訟上の和解を成立させた。

そして、国は、障害のある当事者も参加した障がい者制度改革推進会議及び総合福祉部会を設置し、同部会は上記「基本合意文書」及び障害者権利条約を指針として2011年8月30日付けで「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言-新法の制定を目指して-」(以下「骨格提言」という。)を公表した。

しかし、総合支援法は、自立支援法の廃止ではなく、一部改正にとどまり、しかも、その内容は、(1)骨格提言において指摘された障害のある人の基本的人権を具体的に保障する規定を設けていない、(2)利用者負担について骨格提言で述べられた原則無償化は採用されず、また、利用者負担を求める際に認定する収入も「家計の負担能力」とされ、成人の場合は障害者本人だけで認定すべきとする骨格提言に反する、(3)障害の範囲について、骨格提言は「谷間」を生まない包括的規定として障害者基本法第2条第1項の障害者を新法の対象者にすることを求めたが、総合支援法は、政令で定める一定の疾病を加えたのみであり、かかる規定の仕方は障害者権利条約が求めている障害の社会モデルの考えに沿わず、例えば疾患の症状(極度の倦怠感、慢性疼痛など)によって生活上の困難が生じていても、政令による指定の対象外の疾患であったり、そもそも診断がつかない場合には福祉サービスを利用することができない、など多くの問題点があり、基本合意や骨格提言を反映したものとはいえず、極めて不十分な内容であるといわざるをえない。

本法律は、附則に、施行後3年を目途として、常時介護を要する者に対する支援等の障害福祉サービスの在り方や支給決定の在り方等について検討を加え、所要の措置を講ずる旨の見直し規定を設けている。

ところで、当会は、本年6月13日、「ALS患者の介護支給量義務付け訴訟判決に関する会長声明」を公表し、何人も障害の有無にかかわらず地域で自立生活を営む権利を有していることを確認した上で、国及び市町村に対し、全ての人に十分な介護支給量が公的に保障される法制度を確立すること等を求めた。

このことを踏まえ、当会は、3年後見直しの際には、当事者参画のもとで、附則に例示された項目に限定されることなく、骨格提言の内容が実現され、何人も障害の有無により分け隔てられることなく地域で暮らせる権利が真に保障される福祉法制が実現されることを強く求める次第である。