声明・談話

発達障害を有する被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決に関する会長声明

2012年(平成24年)9月12日
和歌山弁護士会
会長 阪本 康文

2012年7月30日、大阪地方裁判所第2刑事部は、発達障害を有する男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、懲役20年の判決を言い渡した(以下「本判決」という)。

本判決は、犯行に至る経緯や動機について発達障害の一つであるアスペルガー症候群の影響があったことを認めながら、本件犯行に関するアスペルガー症候群の影響を量刑上大きく考慮することは相当ではないと判断した。そして、社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では、再犯のおそれがさらに強く心配されると述べ、被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持にも資するとして、被告人に懲役20年の判決を言い渡したものである。

発達障害を有することは何ら本人の責めに帰すべきことではない。発達障害を有する人が生きづらさを抱えているのであれば、その解消や支援は社会全体でなされるべきことである。そのため、わが国においては、発達障害者支援法が、発達障害者に対する就労、地域における生活等に関する支援及び発達障害者の家族に対する支援のために必要な措置を講じる責務を国及び地方公共団体が負う旨を明らかにし、現在、全都道府県に発達障害者支援センターが設置されているなど、その支援策が整備されつつある。

本判決が、発達障害を有する被告人に対し、社会内での受け皿がないことを理由にその再犯のおそれを強く認めたのであれば、それは、発達障害を抱える人がその障害ゆえに再犯に結びつきやすいという偏見を助長するものであり、また、社会内に発達障害を有する人の受け皿が整備されつつあることを無視するものと言わなければならない。

当会は、発達障害に関する正しい理解を広く喚起するとともに、発達障害を有する人が自立した日常生活及び社会生活を営めるような社会の実現に寄与していくことを決意し、本声明を発表するものである。