声明・談話

難病患者の基本的人権を尊重する支援制度の構築を求める会長声明

2013年(平成25年)12月12日
和歌山弁護士会
会長 田中 祥博

政府は、平成25年10月29日、「難病対策の改革に向けた取り組みについて(素案)」(以下「素案」という)を発表した。  難病患者は、憲法や、平成25年12月4日に国会で批准が承認された障害者の権利条約(以下「権利条約」という)により、適切な医療を受けながら地域社会で平等に生活する権利を保障されている。そして平成23年には障害者基本法が改正され、国内法上も難病患者が明確に障害者と位置付けられた。難病患者の多くは、生涯に渡り、医療に生命を支えられながら日常生活を送っている。医療は難病患者にとって文字通りの「生命線」であることから、難病施策は何よりもまず、これらの法律・条約の基本理念である障害(病気)のある者とない者との平等を基調としながら、難病患者の適切な医療を受け、地域社会で平等に生活する権利の実現を目的として実施されなければならない。

今回の難病対策の改革は、現在の要綱に基づく医療費助成制度に対して法的根拠を与えて安定化を図ること、そして対象患者の認定基準を見直し、難病患者に対する必要な支援が公平に行われることなどを目的と掲げている。しかしながら、法制化の動き自体は一歩前進と評価できるものの、素案は、以下の重大な問題があり、難病患者が病気のない者と等しく生きる権利に対する配慮を欠くものである。

第一に、難病対策制度は、治療方法を研究する制度として症例数の少ない希少な病気を対象として始まったため、医療費の助成対象も希少な病気に限定された。素案も、この目的を引き継いでいるため、対象疾患を拡大する方針こそ打ち出しているものの、症例数や病名など、生活上の困難と無関係の理由により支援を受けられない患者を生じさせることになり、医療を必要とする患者を制度的に切り捨て、様々な形で制度の谷間が生じることを依然として許していることに変わりはない。

第二に、素案は、新たに「重症度分類」なる基準を設け、これを満たした場合にのみ助成対象とする。これは、医療を受けながら軽症を保ち、ようやく社会生活を営んでいる患者を切り捨てることを意味し、新たな制度の谷間を生むものである。こうした谷間を前提とする制度は、すべての難病患者に保障された、適切な医療を受けながら地域社会で平等に生活する権利を軽視するものである。

第三に、素案は、医療費を一定条件下で2割へ引き下げるとする。しかし難病にかかる医療費は、2割負担でも毎月数万円に及ぶことも珍しくなく、助成対象の患者に対しても生活実態に見合わない負担となり、生活を深刻に圧迫する。権利条約25条も、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(骨格提言)」(平成23年8月公表)も、障害に伴う医療費は、障害がなければ負担する必要のない費用であり、他の者との平等の観点から社会が負担すべきであるとの考えから、原則無償であることを求める。素案の示す月額負担上限額も、患者が生涯支払い続けるにはあまりにも重く、素案は、権利条約や骨格提言を実現するには不十分な内容である。

更に政府は、素案に加え、子どもの難病である小児慢性特定疾患(児童福祉法21条の5)についても、素案に合わせて負担増を求める案を発表している。しかし権利条約25条に加え、同7条による障害のある子どもに関する国の責務に照らし、難病をもつ子どもに対しては成人にも増して助成が求められるのであり、政府案のように漫然と負担増を求めることは許されない。

そもそも難病は誰しもがかかりうるものであり、努力によって如何ともしがたく、難病をもつに至ったことを自己責任に帰することはできないのであり、当会は国に対し、素案の抜本的見直しを求めると共に、難病対策制度法制化にあたっては、病気(障害)の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有する個人として尊重しあいながら共生する社会の実現のため、必要な人に必要な支援が行き届く制度の実現を切望する。