声明・談話

行政書士法の改正に反対する会長声明

2014年(平成26年)2月10日
和歌山弁護士会
会長 田中 祥博

日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立,再審査請求等行政庁に対する不服申立について代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求める運動を継続的に推進しており,早ければ今通常国会において,前記の業務を行政書士の業務範囲に加える行政書士法改正案が,議員立法として提出される可能性がある。

しかし,当会は,行政庁に対する不服申立てに関する代理権限を行政書士に付与することについて,以下の理由から反対する。

第1に,現行法上,行政書士は行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として,行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出することを主な職務とする。かかる主目的の下で職務を行う行政書士に,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護することを目的とした行政不服申立て制度に関する代理権を付与することは,本質的に相容れないと言うべきである。

第2に,行政書士に対する懲戒処分及び行政書士会に対する監督は都道府県知事が行い,日本行政書士会連合会に対する監督は総務大臣が行うものとされている。このような立場にある行政書士が,国民と行政庁が鋭く対立する場面である行政不服申立て手続の代理人として,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正すべく十分な代理行為を行い得るのか大いに疑問があり,不服申立てに関する代理権限を付与することがかえって国民の権利利益の実現を危うくする虞がある。

第3に,行政不服申立ての代理行為は,その後の行政訴訟の提起も視野に入れて行うべきものであり,法律事務処理の初期段階で訴訟の結論まで見据えて,迅速かつ的確に対応することが国民の権利利益の擁護に資する一方,初期対応を誤ると国民の権利利益を害することにつながりかねない。然るに,行政書士には司法修習制度のような訴訟実務に関する公的な能力担保制度が存在しないことから,行政書士に行政不服申立ての代理権を認めると,代理人である行政書士が初期対応を誤り,依頼者の権利利益を害する虞がある。

第4に,弁護士は,これまでも,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。また,2013年(平成25年)9月30日現在,弁護士数は3万3561人であり,さらに今後も増加していくことが確実視される現状からすれば,国民に対して行政不服申立て等の代理人は十分供給されているといってよい。従って,行政書士に行政不服申立て等の代理権を付与すべき立法事実は認められない。

よって,当会は,行政庁に対する不服申立てに関する代理権限を行政書士に付与することに強く反対する。