声明・談話

労働時間法制の規制緩和に係る労働基準法改正に反対する会長声明

2015年(平成27年)5月19日
和歌山弁護士会
会長 木村 義人

政府は、平成27年4月3日、労働時間法制の規制緩和を含む「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を第189回通常国会(以下「今国会」という。)に提出し、現在、今国会において審議されている。

本法案は、高度専門的知識を要する業務に従事し、年収が平均給与額の3倍の額を相当程度上回る等の要件を満たす労働者について、労働時間規制の適用を除外する「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」を創設することや、企画業務型裁量労働制を拡大する等、労働時間規制を大きく緩和するものとなっている。

本法案が創設しようとする「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」は、現行の労働時間規制を一切適用しないとするものであり、対象となる労働者が休日・休憩を取らずにどれだけ働いたとしても、使用者は割増賃金の支払いを免れ、その結果、長時間労働に歯止めをかけることができなくなるおそれがある。

また、本法案では、業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に携わる労働者について、労働時間の計算を実労働時間ではなくみなし労働時間によって行うことを認める裁量労働制のうち、企画業務型裁量労働制の対象業務の範囲を拡大することや、制度導入のための手続の簡素化が予定されている。しかし、現状においても、みなし労働時間と実労働時間が大きく乖離し、裁量労働制下の労働者に長時間労働の傾向が見られるところ、対象範囲の拡大や手続の簡素化は、長時間労働にさらに拍車をかけることになりかねない。

長時間労働は労働者の健康に悪影響を及ぼす。そして、我が国では、長時間労働を原因とする過労死・過労自殺が深刻な社会問題となっている。労働者の生命と健康を維持するためにも、また労働者の家庭的、社会的、文化的な生活(ワーク・ライフ・バランス)を確保するためにも、長時間労働を抑制することは喫緊の課題である。しかし、長時間労働を抑制する実効的な規制を欠いたまま、労働時間規制を大幅に緩和する本法案は、さらなる長時間労働を助長しかねない危険性を有するものである。

よって、当会は、本法案に反対するものである。