声明・談話

少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明

2015年(平成27年)8月14日
和歌山弁護士会
会長 木村 義人

1 本年6月17日、公職選挙法の一部を改正する法律が可決成立し、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた。そして、同法附則第11条に「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とあることを受けて、少年法の適用年齢を18歳に引き下げる方向での議論がなされている。

2 しかし、そもそも法律の適用年齢を決めるにあたっては、それぞれの法律の目的や保護法益に照らし個別具体的な検討が必要である。
 公職選挙法は、国民主権を実現するための選挙制度を確立し、その選挙が公明かつ適正に行われることを確保し、もって民主政治の健全な発展を期することを目的とするのであり、選挙年齢をどうするかは、民主主義の観点即ち主権者としてそのような年齢、人々の意見を国政に反映させるべきか否かという観点から議論されるべき問題である。
 他方、少年法は、少年の健全な育成という観点から、性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行い、少年の更生を図ることを目的としている。したがって、少年法の適用年齢は、非行を犯した少年の更生や再犯の防止という観点から議論されるべき問題である。
 このように、選挙権付与年齢と少年法の適用年齢とは別問題であり、必ずしも両者の平仄をあわせる必要はない。

3 仮に、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げた場合、18歳・19歳の少年は成人と同じく刑事手続で処分されることになるが、その場合、現在の少年法下において行われている以下のような教育的措置、つまり家裁調査官による家庭環境や成育歴等にまで踏み込んだ調査・分析や、少年鑑別所技官、付添人などによる環境調整や教育的働きかけなどが一切行われないこととなる。
 検察統計によると、平成25年の刑法犯の起訴率は16.9%であり、少年法のもとであれば保護処分を受けるであろう少年についても、多くのケースで起訴猶予等の不起訴処分となることが予想され、少年の抱える問題に適切な手当てがなされないまま手続から解放されることで、更生へのきっかけを失ってしまうおそれがある。

4 少年法適用年齢引き下げの議論の背景には、少年事件の増加や凶悪化があるとの前提に立ち、非行を犯した少年への厳罰化を求める意見があると見受けられる。
 しかし、犯罪白書によれば、少年による刑法犯の検挙人員は平成16年から毎年減少し続け、刑法犯少年の人口比(同年齢層の人口1000人当たりの検挙人数)でみても、平成17年の15.9人から低下を続け、平成26年には6.8人と著しく減少している。さらに、殺人や強盗などの凶悪犯罪についても、ピーク時の昭和30年代半ばには約8000人が検挙されていたところ、その後大幅な減少に転じ、平成17年に1441人、平成26年には703人にまでその検挙人数が減少しているのであり、少年犯罪の増加や凶悪化といった事実は存在しない。
 なお、現行少年法においても、重大事件は検察官送致(いわゆる逆送)によって成人と同じく公開法廷で裁判が行われるし、平成26年改正によって少年に対する刑罰の上限が引き上げられているところでもあって、重大犯罪を起こした少年には厳しい処罰がされる仕組みとなっている。

5 このように、少年法の適用年齢について選挙年齢と平仄をあわせる必要はないし、むしろ少年法の適用年齢を引き下げることで弊害が生じるおそれが高い。
 よって、当会は、少年法の適用年齢の引き下げに反対するものである。