声明・談話

テロ等組織犯罪準備罪法案の国会への提出に反対する会長声明

2017年(平成29年)1月19日
和歌山弁護士会
会長 藤井 幹雄

政府は,過去,世論の強い反対のために三度廃案となった,いわゆる共謀罪法案について,「共謀罪」という名称を「テロ等組織犯罪準備罪」と改め,これを含んだ組織的犯罪処罰法改正案(以下,「新法案」という。)を国会に提出する動きを見せている。

当会は,過去の共謀罪法案が,共謀をもって人の処罰を可能とする点で,人の内心を処罰することにもなりかねず,国民の基本的人権に対する重大な脅威となることから,過去2回にわたって,会長声明を公表し,これに反対してきた。

報道によれば,新法案は,二人以上の者が,「重大犯罪」について,「組織的犯罪集団」の活動として,具体的・現実的な「計画」を立て,その上で実行のための「準備行為」を行った場合を処罰する内容となっている。

しかしながら,新法案は,以下のとおり,過去の共謀罪法案と同様の危険性などがあることから,当会としては,新法案の国会への提出に強く反対する。

第1に,新法案は「組織的犯罪集団」の定義を「目的が長期4年以上の懲役・禁固の罪を実行することにある団体」とするが,この定義は,「目的」という主観的事情の有無をもって要件該当性を判断する内容となっており,捜査機関の判断によって,広く同要件の該当性が認められてしまう危険性がある。

また,新法案の「計画」とは,「共謀」の言い換えに過ぎず,いかなる場合が「計画」に該当するのか,その処罰範囲が不明確であることに変わりはない。

さらに,新法案は,計画の上で,「準備行為」を行った場合のみを処罰するとしているが,ここでいう準備行為自体には犯罪実現の危険性を要さないため,預金の引き出しなど市民の日常生活に関する行為が広く含まれてしまうことになりかねず,線引きが不明確である。

このように,新法案の内容においても,その処罰範囲が不明確であって,国民の活動に萎縮が生じる恐れがあり,基本的人権に対する重大な脅威となる。

第2に,新法案は,禁止される「計画」の内容は,重大犯罪(法定刑長期4年以上の懲役・禁固が含まれる犯罪)に関するものに限られるとするが,上記重大犯罪の数は当初は600を超えるとされ,その中には,背任罪などテロ対策にはおよそ無関係である犯罪も含まれていた。日本政府が対象犯罪を300以下とする方向で調整をすすめるという報道もあるが,対象犯罪を300以下に絞ったとしても対象犯罪が多すぎ,関係のない罪にまでテロ等組織犯罪準備罪が適用されるのではないかという懸念は払拭できない。

第3に,上記のとおり,処罰範囲が不明確であり,適用対象も広範である新法案の捜査のため,テロ対策の名目で市民の監視が行われ,国民のプライバシー権が日常的に侵害される社会となることのおそれすら存在する。

以上のとおり,新法案は,日本国憲法が保障した国民の思想・信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由,プライバシー権などの基本的人権に対する重大な脅威となるものであり,人の内心を処罰することにもなりかねないことから,当会は,新法案の国会への提出に強く反対する。