声明・談話

旧優生保護法に基づく不妊手術を強いられた被害者等に対する抜本的解決を求める会長声明

2022年(令和4年)3月9日
和歌山弁護士会
会長 田邊 和喜

1 旧優生保護法に基づいて不妊手術(優生手術)を強いられた被害者及びその配偶者ら(以下「本件被害者ら」という。)3人 が、旧優生保護法が自己決定権や平等権等を侵害する違憲なものであるとして、国に対し、国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償を求めた事案において、2022年(令和4年)2月22日、大阪高等裁判所は、国に対し、本件被害者らに発生した損害等として合計2750万円余りの支払いを命ずる判決を言い渡した。

前記判決は、本件被害者らについて、同意のないまま、優生手術を受けさせられ、身体への侵襲を受けた上、生殖機能を不可逆的に喪失したことで、子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を侵害され、子をもうけることによって生命をつなぐという人としての根源的な願いを絶たれたものであり、違法な立法行為による権利侵害を受けたと断じた。また、旧優生保護法について、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とし、本人の同意なく優生手術の対象となる障害ないし疾患を有する者を特定・列挙するものであるところ、本件被害者らのように旧優生保護法に基づく優生手術を受けさせられた者は、一方的に「不良」との認定を受けたに等しいとし、このような非人道的かつ差別的な烙印ともいうべき状態は、本件被害者らの個人の尊厳を著しく損ねるものと断じた。

最大の争点は、除斥期間の適用の可否である。この点について、大阪高等裁判所は、20年の除斥期間の規定も 例外を一切許容しないものではなく、被害者等による権利行使を客観的に不能又は著しく困難とする事由があり、しかも、その事由が、加害者の当該違法行為そのものに起因している場合のように、正義・公平の観点から、時効停止の規定の法意等に照らして除斥期間の適用が制限されることは、相当に例外的であったとしても、想定されると解した。そして、被害者らが長期にわたり本件訴訟を提起できなかったのは、自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることを知らされず、国家賠償を求める手段があることを認識していなかったためであるが、更にいえば、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別・偏見やこれを危惧する家族の意識・心理の下、被害者らが訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことによるとして、除斥期間の適用が制限されるとした。

当会は、大阪高等裁判所の判決について、国による苛烈な人権侵害に対する正当な評価をした勇気あるものとして、高く評価するものである。

2 国は、2019年(平成31年)に、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律を制定・施行したが、その金額は320万円に過ぎず、苛烈な人権侵害を受けたことに見合ったものであるとはいいがたい上、附則第2条において施行後における請求の状況を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとするとされているものの、現時点で請求期間は5年に制限されており、前記のようなアクセスが著しく困難な環境にあった者に対する周知の期間を考えると短期間に過ぎるといわざるを得ない。

報道によると、厚生労働省が推計する一時金支給の対象者は約1万2000人であるとのことであるが、2022年( 令和4年)1月末までに一時金支給の認定を受けることができたのは966人であるとのことである。和歌山県の調査では、和歌山県内で旧優生保護法に基づいて優生手術の申請があった件数が193件あり、手術が適当と認められた件数が165件あるとされているにもかか わらず、厚生労働省によると、2022年( 令和4年)1月末までにわずか6人しか一時金の支給を受けられていない。

3 そこで、当会は、国に対し、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律について、大阪高等裁判所の判決を参考に、可能な限り、旧優生保護法の被害を受けたすべての方に 、その被害に見合った金額が支給される手段を講ずることによって、この問題の抜本的解決を求めるものである。