声明・談話

労働者の生活を支えコロナ禍の地域経済を活性化させるために
最低賃金の引上げと中小企業支援の強化を求める会長声明

2022年(令和4年)7月8日
和歌山弁護士会
会長 山岡 大

令和3年7月16日、中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、令和3年度地域別最低賃金額改定の目安について答申を行い、公益委員見解としてすべての都道府県につき28円の増額が示された。同年8月5日、和歌山地方最低賃金審議会は、和歌山労働局長に対し、和歌山県最低賃金について1時間859円(28円増額)とする旨の答申を行い、これを受けて同年10月1日に時間額859円に改正された。近畿では、大阪府は992円、京都府は937円、兵庫県は928円、滋賀県は896円、奈良県は866円であって、和歌山県は最も低く、大阪府とは133円の開きがある。

我が国における最低賃金制度とは、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とするものであり(最低賃金法第1条)、憲法第25条の生存権を実質的に保障する制度である。

しかしながら、時間額859円では、月173.8時間(週40時間)働いたとしても14万9294円である。この収入では、労働者の生活を維持することは極めて難しく、病気や怪我などに備えて貯蓄に回す金銭すらない。そこに、ウクライナ情勢も相まって物価が上昇している。労働者が健康で文化的な生活を営み、労働者の生活の安定及び労働力の質的向上を図ることは喫緊の課題である。

この点、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022について」(令和4年6月7日閣議決定)(以下「骨太の方針2022」という。)において、人への投資のためにも最低賃金の引き上げは重要な政策決定事項であるとし、できる限り早期に最低賃金が全国加重平均1000円以上になることを目指し、これに取り組むとしている。この目標金額自体、低いと言わざるを得ないが、少なくとも早期にこの政府目標が達成されることは重要である。また、和歌山県の最低賃金が近畿で最も低いことから、人口減少傾向が続いている和歌山県の労働力がさらに県外に流出するという悪循環を招きかねず、最低賃金の引き上げは、新型コロナウイルス感染症も相まって停滞している地域経済を活性化させる効果もある。

一方、最低賃金の引上げは、地域経済を支える中小企業の経営に大きな影響を与えかねないことも事実である。政府は骨太の方針2022において、中堅・中小企業の活力向上につながる事業再構築・生産性向上等支援、適切な価格転嫁の環境整備、抜本的に拡充した賃上げ促進税制の活用促進、賃上げを行った企業からの優先的な政府調達等に取り組み、地域の中小企業も含めた賃上げを推進するとしており、十分な支援策が早急に講じられるべきである。具体的には、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援が有効であると考えられる。

当会は、これまでも最低賃金の引き上げと中小企業支援の強化を求める会長声明を発出してきたが、本年度の改定にあたり、和歌山地方最低賃金審議会、和歌山労働局長、及び政府に対し、労働者の生活が安定し健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、改めて最低賃金の引き上げと、中小企業支援の強化を求めるものである。