知っておきたい法律知識

障害者基本法改正について

高齢者・障害者支援センター運営委員会
副委員長 長岡 健太郎

1 はじめに

平成23年7月29日、「障害者基本法の一部を改正する法律」が成立し、同年8月5日、公布・施行(一部を除く)された。

平成21年12月、政府は障害者権利条約(以下「権利条約」という)の批准に向けた国内法の整備等を行うため、内閣府に「障がい者制度改革推進本部」を設置し、同本部の下で、障害当事者を中心とする「障がい者制度改革推進会議」を開催してきた。 今回の法改正は、同会議が平成22年12月にとりまとめた「障害者制度改革の推進のための第二次意見」を踏まえてなされたものである。 主な改正点は以下の通りである。

2 総則

(1) 目的

障害者を、必要な支援を受けながら、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する権利主体としてとらえ、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現」することを法の目的として新たに規定した(1条)。

(2) 定義

障害者が日常生活等において受ける制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生じるとするいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害者の定義が見直された(2条1号)。 「障害」の範囲について、発達障害や難病等に起因する障害が含まれることを明確化し、制度の谷間をなくすため、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」を「障害」とした(2条1号)。難病等に起因する障害は「その他心身の機能の障害」に含まれることになる。 また社会モデルの考え方を踏まえ、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限をもたらす原因となる「社会的障壁」についても規定された(2条2号)。

(3) 地域社会における共生等

障害の有無にかかわらず共生する社会の実現を図るに当たり、旨とすべき事項として、 ①「全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと」(3条2号)、 ②「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること」(3条3号)が新たに規定された。

①は、障害者に「他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと」を定めた権利条約19条を踏まえた規定であり、改正前から一定の前進が認められるが、「可能な限り」との留保があるなど条約に比べて不十分であるとの指摘もなされている。

②は、情報アクセスとコミュニケーションの権利保障の観点から重要な規定であるが、特に国内法で初めて手話を言語として認めた点が注目される。

(4) 差別の禁止

「合理的配慮」をしないことも差別であるという権利条約の趣旨を踏まえ、障害者への差別とならないよう、障害者が個々の場合において社会的障壁の除去を必要とし、かつ、そのための負担が過重でない場合には、その障壁を除去するための措置が実施されなければならない旨規定された(4条2項)。

3 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策

(1) 医療、介護等

地域社会における共生という基本原則を踏まえ、可能な限り、障害者が自らの意思に反して施設や病院での生活を強いられることなく、地域社会で生活できるようにするため、その身近な場所において医療、介護等を受けられるようにする旨規定された。また医療、介護等の提供に当たっては、本人の意思を尊重し適正手続を確保する観点から、障害者の人権を十分尊重しなければならない旨新たに規定された(14条5項)。

(2) 教育

これまで、就学先の決定に当たっては、特定の基準に該当する子どもは原則特別支援教育を受けることとされていたが、今回の改正では、地域社会における共生という基本原則を踏まえ、障害者本人及び保護者の希望に応じて、可能な限り、障害者が障害者でない者と共に教育を受けられるよう配慮しなければならない旨新たに規定された(16条1項及び2項)。

(3) 選挙等における配慮

国及び地方公共団体は、選挙等において、障害者が円滑に投票できるようにするため、たとえば投票所におけるバリアフリーや、障害者の特性に応じた方法により選挙に関する情報を提供するなど、投票所の施設又は設備の整備その他必要な施策を講じなければならない旨の条文が新設された(28条)。

(4) 司法手続における配慮等

障害者が、刑事事件の対象となった場合や民事事件の当事者となった場合などにおいて、その権利の行使に当たって障害者でない者に比して不利となることがないよう、個々の障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する研修その他必要な施策を講じなければならない旨の条文が新設された(29条)。

4 障害者政策委員会等

障害者基本計画の実施状況を監視し、必要に応じて関係各大臣等に対する勧告等を行う「障害者政策委員会」を内閣府に置くこととされた(32条1項及び2項)。権利条約33条2項が求めるモニタリング機関としての役割を担うことが期待される。

5 最後に

改正障害者基本法については、施行後3年を経過した時点で、法の施行状況について検討を加え、必要な措置を講ずることとされている(附則2条1項)。
また今後、障害者基本法改正に続く障害者制度改革のステップとして、①平成25年8月までの廃止が予定されている障害者自立支援法に代わる、新たな障害者総合福祉法の制定、②障害者差別禁止法の制定、そして③権利条約の批准が予定されている。
いずれも障害当事者を中心とする「障がい者制度改革推進会議」の議論を十分に反映させながら進められるべきであり、その行方も注目される。