声明・談話

ALS患者の介護支給量義務付け訴訟判決に関する会長声明

2012年(平成24年)6月13日
和歌山弁護士会
会長 阪本 康文

和歌山地方裁判所は2012年4月25日、和歌山市在住の筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」という。)患者が1日24時間の公的介護を求めていた裁判で、和歌山市に対し、1ヵ月542.5時間(介護保険と併せて1日当たり21時間)以上の障害者自立支援法に基づく重度訪問介護の支給量を定めた支給決定を義務付ける判決を言い渡した(双方控訴せず確定)。

同判決は、市町村は支給決定に際し、障がいのある人ひとり一人の個別具体的な支援の必要性を考慮すべきとの基本的な考え方を示し、見守りを含めた介護の必要性やALSという疾患の特性も踏まえ、1日当たり8時間余り(介護保険と併せて約12時間)という従前の支給決定を違法とした。

重度の障がいのある人も、障がいの有無・程度により分け隔てられず、地域で自立した生活を営む権利を、憲法13条、14条1項、22条1項及び25条並びに国連障害者の権利条約19条に基づく基本的人権として有している。

しかし現在、障がいのある人にとって十分な介護支給量が保障されているとはいえず、和歌山市のみならず全国で多くの障がいのある人、難病患者が住み慣れた地域で自立生活を送れずにいるのが実情である。特にALS患者を初めとする医療的ケアを要する者は、介護に伴う経済的負担や家族の介護負担を考慮して人工呼吸器を装着せず「死」を選択する者も少なくない。必要な介護が公的に保障されて初めて、障がいのある人や難病患者は尊厳ある「生」を選択し、地域で自立した生活を営むことができるのである。

本判決は東京地裁平成22年7月28日判決(第二次鈴木訴訟判決)、大阪高裁平成23年12月14日判決(和歌山石田訴訟判決)等に続き、市町村は障がいのある人や難病患者の個別事情に則した十分な介護支給量を保障すべきとの法解釈を改めて確認し、かかる法解釈はもはや確立したと評価できる。

和歌山市は平成24年4月27日、原告の病気が進行性であること、家族の健康状態等を考慮した結果、和歌山地裁の判決を厳粛に受け入れるべきと判断したとして控訴を断念することを表明した。かかる和歌山市の判断は、今後、原告が住み慣れた自宅で安心して生活できることを第一に考慮した結果なされたものと考えられ、積極的に評価できる。

当会は、本判決を機に、改めて何人も障がいの有無に関わらず地域で自立生活を営む権利を有していることをここに確認する。その上で、国及び市町村に対し、全ての人に十分な介護支給量が公的に保障される法制度を確立すると共に、その運用を可能ならしめるため、財政的措置、介護事業者及びヘルパーの確保等の必要な措置を講ずることを強く求めるものである。