声明・談話

秘密保全法制定に反対する会長声明

2012年(平成24年)7月12日
和歌山弁護士会
会長 阪本 康文

「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」は,2011年8月8日に秘密保全法制に関する報告書を取りまとめ,これを受けて,政府は,法案などの情報を公表することなく,報告書の内容に沿って法案化作業を進めている。

この報告書では,秘密保全法における秘密の対象として,①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序維持に関するものを特別秘密とし,規制の対象者としては国家公務員だけではなく地方公務員,独立行政法人職員,委託を受けた民間人まで含め,さらには故意の漏洩行為のみならず過失の漏洩行為,特定取得行為,未遂,共謀,独立教唆及び扇動など幅広い行為につき刑事罰を定めている。

また,特別秘密の取扱者から,秘密を漏洩する一般的なリスクがあると認められる者をあらかじめ除外する適性評価制度を導入し,公務員のみならず,その配偶者についてまで,我が国の利益を害する活動への関与,犯罪歴や精神の問題に関わる通院歴などを調査し,このような広範なプライバシー情報の提供を義務づけている。

しかし,この秘密保全法制には,次のように,憲法上看過しがたい問題点がある。 ①原発事故の情報などのように,本来,国民に広く提供されるべき情報が隠蔽されやすくなり,メディアの取材・報道の自由を制限し,ひいては民主主義の根幹である国民の知る権利を不当に制約するおそれが大きい。②適性評価制度は,他人に最も知られたくない個人情報を調査対象としており,思想良心の自由やプライバシー権を侵害するおそれが大きい。③「特別秘密」の範囲が不明瞭かつ広範であるにもかかわらず刑事罰を科し,過失の漏洩行為等まで処罰対象とすることは,刑罰法規の明確性を要請する罪刑法定主義に反するおそれが大きい。④しかも,秘密保全法制に違反したとして起訴された場合,憲法82条2項但書に該当することになると考えられるが,そうすれば当該特別秘密はたちどころに秘密ではなくなるし,仮に非公開で刑事裁判が進行すれば,公開裁判を受ける権利を侵害することとなる。

よって,本会は,このような憲法違反の疑いの強い秘密保全法の制定には反対する。