声明・談話

和歌山県、和歌山市に対し、学校法人和歌山朝鮮学園に対する補助金の交付の再開を求める会長声明

2018年(平成30年)2月23日
和歌山弁護士会
会長 畑 純一

当会は、2016(平成28)年9月9日付けで「『朝鮮学校に係る補助金交付に対する留意点(通知)』の撤回を求めるとともに、学校法人和歌山朝鮮学園に対する補助金の適切な交付を求める会長声明」を発出した。即ち、同年3月29日付けの「朝鮮学校に係る補助金交付に対する留意点(通知)」と題する文科大臣通知は、日本国と北朝鮮の関係、北朝鮮と朝鮮総聯との関係という、朝鮮学校に通う子どもたちと何ら関わりのない専ら外交問題・政治問題を問題としているものであり、その通知を元に朝鮮学校に対する補助金を交付しないことは、①日本国憲法26条1項、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約13条及び子どもの権利条約28条により保障される、朝鮮学校に通う生徒の教育を受ける権利、②市民的及び政治的権利に関する国際規約27条、民族的、宗教的、言語的マイノリティに属する権利に関する宣言及び子どもの権利条約30条によって保障される母語教育・民族教育を受ける権利、並びに③憲法14条1項に定める平等権を侵害するものであることを指摘し、和歌山県、和歌山市に対し、学校法人和歌山朝鮮学園(以下「和歌山朝鮮学園」という)に対する補助金について、上記憲法及び条約の趣旨に照らし、適切に交付するよう求めた。

ところが、和歌山県及び和歌山市は、いずれも、平成28年度予算に計上されていた和歌山朝鮮学園に対する補助金を執行せず、さらに平成29年度からは和歌山朝鮮学園を補助金の交付対象そのものから外す措置をとった。

そもそも和歌山朝鮮学園に対する補助金は、和歌山県は昭和56年から、和歌山市は昭和61年から、いずれも、義務教育に相当する年齢である和歌山朝鮮学園の生徒の教育条件の維持向上、経済的負担の軽減を図ることを目的として交付されてきたものである。

和歌山県及び和歌山市によれば、和歌山朝鮮学園が朝鮮総聯から資金的援助を受けていることなど朝鮮総聯との関係が確認できたことから、上記文科大臣通知の趣旨に従って、補助金を交付しないこととした、とのことである。しかし、これは上記会長声明に指摘したとおり、和歌山朝鮮学園に通う子どもたちと何ら関わりのない専ら外交問題・政治問題を理由とするものである。なお、和歌山市は、和歌山朝鮮学園の会計報告に、「(北朝鮮)本国からの補助金」との記載があることをとらえて、これを「国」からの補助金を受けていることから和歌山市による補助の必要性がないと判断したことも、理由としている。しかし、和歌山朝鮮学園の運営経費の過半は、保護者や支援者の寄付によってまかなわれており、「本国からの補助金」の記載を理由として、和歌山市が補助金を廃止することは、教育条件の維持向上、経済的負担の軽減という本来の目的に反する措置である。さらに和歌山市は、今後「(北朝鮮)本国からの補助金」がなくなったとしても、和歌山朝鮮学園に対する補助金を復活する考えがないとして、和歌山朝鮮学園に対する教育振興補助金交付要綱そのものを平成29年2月7日付けで廃止している。このことからすれば、やはり、和歌山市は、北朝鮮・朝鮮総聯との関係という、和歌山朝鮮学園に通う子どもたちと何ら関わりのない専ら外交問題・政治問題を理由として、和歌山朝鮮学園に対する補助金を廃止したものと判断せざるを得ない。

和歌山県及び和歌山市は、補助金を廃止するに際して、朝鮮学校に通う子どもたちには教育を受ける権利、母語教育・民族教育を受ける権利、平等権が保障されていることを踏まえ、上記補助金の本来の目的に基づく教育上の観点からの検討を慎重にすべきであった。にもかかわらず、和歌山県においても和歌山市においても、そのような検討はなされていない。

よって、当会は、和歌山県及び和歌山市に対し、和歌山朝鮮学園に対する補助金について、上記憲法及び条約の趣旨に照らし、上記教育上の観点から交付を再開するよう求める。