声明・談話
旧優生保護法に基づく不妊手術を強いられた被害者等に対する抜本的解決と、全国の裁判所において障害者に必要な手続上の配慮が提供されることを求める会長声明
2024年(令和6年)7月16日
和歌山弁護士会
会長 谷口 拓
旧優生保護法に基づいて不妊手術(優生手術)を強いられた被害者及びその配偶者(以下「本件被害者ら」という。)並びにそれらの相続人ら(以下「第1審原告ら」という。)が、旧優生保護法中の不妊手術を実施する根拠とする規定(以下「本件規定」という。)は本件被害者らの自己決定権や平等権等を侵害して憲法13条、41条1項に違反するとして、国に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案において、2024年(令和6年)7月3日、最高裁判所大法廷は、本件規定が憲法13条、14条1項に違反するものであってその立法行為は国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けること、第1審原告らの国に対する損害賠償請求権について、国が平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)条後段の期間の経過により消滅したと主張することは信義則に反し、権利の濫用として許されないとの判決を言い渡した。
この判決は、本件規定の立法目的が、専ら優生上の見地、すなわち、不良な遺伝形質を淘汰し優良な遺伝形質を保存することによって集団としての国民全体の遺伝的素質を向上させるという見地から、特定の障害等を有する者が不良であるという評価を前提に、その者又はその者と一定の親族関係を有する者に不妊手術を受けさせることによって、同じ疾病や障害を有する子孫が出生することを防止することにあると解されると認定した上で、憲法13条は個人の尊厳と人格の尊重を宣言しているところ、本件規定の立法目的は、「特定の障害等を有する者が不良であり、そのような者の出生を防止する必要があるとする点において、立法当時の社会状況をいかに勘案したとしても、正当とはいえないものであることが明らか」と断じ、本件規定が「そのような立法目的の下で特定の個人に対して生殖能力の喪失という重大な犠牲を求める点において、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」とした。
最大の争点は、改正前民法724条後段の適用の可否である。この点について、最高裁判所大法廷は、改正前民法724条後段の規定は除斥期間を定めたものと解するのが相当であるとしたが、除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、損害賠償請求権が除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができると解するのが相当であると判示し、これまでの最高裁判所の判例を変更するとした。
当会は、最高裁判所大法廷判決について、「立法府が、非人道的かつ差別的で、明らかに憲法に違反する立法を行い、これに基づいて、長年に及ぶ行政府の施策の推進により、全国的かつ組織的に、極めて多数の個人の尊厳を否定し憲法上の権利を侵害するに至った被害」(三浦守裁判官の補足意見)に正面から向き合った正当な判決として、高く評価するものである。
国は、2019年(平成31年)に、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律を制定・施行したが、その金額は320万円に過ぎず、生殖能力の喪失という重大な犠牲を強いて極めて苛烈な人権侵害を受けたことに見合ったものであるとはいいがたい。
衆議院及び参議院が共同で調査を実施し、令和5年6月に取りまとめられた「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律第21条に基づく調査報告書」によると、約2万5000件の旧優生保護法による不妊手術が行われたということである。しかし、子ども家庭庁によると、令和6年5月末までに一時金支給の認定を受けることができたのは1110人であるとのことである。和歌山県の調査では、和歌山県内で旧優生保護法に基づいて優生手術の申請があった件数が193件あり、手術が適当と認められた件数が165件あるとされているにもかかわらず、子ども家庭庁によると、令和6年5月末までにわずか7人しか一時金の支給を受けられていない。
三浦守裁判官の補足意見においても、「被害者の多くが既に高齢となり、亡くなる方も少なくない状況を考慮すると、できる限り速やかに被害者に対し適切な損害賠償が行われる仕組みが望まれる。そのために、国において必要な措置を講じ、全面的な解決が早期に実現することを期待する。」と述べられている。
当会は、既に2022年(令和4年)3月9日に抜本的解決を求める会長声明を発出しているところであるが、最高裁大法廷判決を踏まえ、あらためて国に対し、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律について、旧優生保護法の被害を受けたすべての方に、その被害に見合った金額が支給される手段を講ずることによって、この問題の抜本的解決を求めるものである。
また、報道によると、前記の判決期日においては、障害のある人の来訪が多く見込まれるため、傍聴人向けの手話通訳者を公費で手配したということである。
当会は、最高裁判所大法廷判決について、「立法府が、非人道的かつ差別的で、明らかに憲法に違反する立法を行い、これに基づいて、長年に及ぶ行政府の施策の推進により、全国的かつ組織的に、極めて多数の個人の尊厳を否定し憲法上の権利を侵害するに至った被害」(三浦守裁判官の補足意見)に正面から向き合った正当な判決として、高く評価するものである。
この点、障害者権利条約第13条(司法手続の利用の機会)は、「締約国は、障害者が全ての法的手続(括弧内省略。)において(略)手続上の配慮(略)等により、障害者が他の者との平等を基礎として司法手続を利用する効果的な機会を有することを確保する。」と定めている。そして、国連の障害者権利委員会が、同条約第9条(アクセシビリティ)に関して採択した一般的意見2号においても、法の執行機関や司法組織が提供するサービスと情報通信が、障害のある人にとってアクセシブルではない場合、司法への効果的なアクセスはあり得ない旨が明記されている。同条約第5条(平等及び無差別)に関して採択された一般的意見6号においては、同条約第13条(司法手続の利用の機会)が定める障害者に対する「手続上の配慮」は不均衡の概念によって制限されないこと、司法手続における理解可能かつアクセシブルな方法による情報配信、意思疎通の多様な形式の承認及び配慮等が、障害者が司法手続を利用する効果的な機会を確保するために必要である旨が明記されている。
当会は、最高裁判所大法廷の前記措置は障害者権利条約に沿った措置として高く評価するとともに、障害の有無にかかわらず全ての国民が司法へ適切にアクセスすることができるよう、全国の全ての裁判所において、必要に応じて障害者権利条約第13条の求める手続上の配慮を実施することのできる体制を講ずるよう求める。

