声明・談話
刑事再審手続に関する法制審議会の要綱に反対し、議員立法による再審法改正の早期実現を求める会長声明
2026年(令和8年)3月18日
和歌山弁護士会
会長 岡 正人
1 はじめに
法制審議会は、2026年(令和8年)2月12日、刑事再審手続に関する「要綱(骨子)」(以下「要綱」という)を採択し、法務大臣に答申した。
再審制度は、国家刑罰権の行使によって生じたえん罪という最大の人権侵害を是正するための最後かつ不可欠な救済手段である。近年、袴田事件、福井事件、日野町事件など、再審無罪判決の確定や開始決定が相次いでいるが、救済までには数十年もの膨大な歳月を要しており、その原因が再審法の規定の不備にあることは明白である。
それにもかかわらず、今回の要綱の内容は、えん罪被害者の迅速な救済という本来の目的に逆行し、かえって救済を困難にしかねない不適切なものとなっている。
2 要綱における重大な問題点
要綱には、以下のとおり、到底容認できない主要な問題点がある。
(1)「調査手続」による再審の扉の封鎖
新たに設けられた「調査手続」において、裁判所が「理由がないことが明らか」と認めれば、証拠提出命令や事実調べを行わずに直ちに請求を棄却することが義務付けられた。過去のえん罪事件では再審請求後の証拠開示が救済の突破口となっており、この規定は書面審査のみでの「門前払い」を助長するものである。
(2)極めて限定的な証拠開示制度
証拠提出命令の対象を「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるもの」に限定し、裁判所の広範な裁量に委ねている 。捜査機関が保管する証拠一覧表の開示義務もなく、無罪につながる証拠の発見は極めて困難となる。
(3)目的外使用禁止による弁護活動の萎縮
開示証拠の目的外使用を罰則付きで禁止している。これにより、新証拠獲得のために支援者に証拠を交付して検証を依頼するなどの不可欠な活動までが躊躇され、救済活動を萎縮させるおそれが極めて大きい。
(4)検察官の不服申立て(検察官抗告)の維持
再審開始決定に対する検察官の不服申立てが廃止されなかった。福井事件では検察官の抗告により救済が13年も遅延しており、有罪・無罪の実体判断は再審公判で行えば足りるはずであるのに、これを維持することはえん罪被害者の早期救済を著しく阻害する。
3 審議プロセスの不公正さと国民の意思との乖離
要綱は、法制審議会刑事法(再審関係)部会を経て作成されているが、同部会の委員・幹事の人選を含め、その審議を主導していたのは、改革されるべき立場にある検察官が要職を占める法務省事務当局である。これではえん罪被害者のための再審法改正は期待できず、この審議過程に対しては、刑事法研究者や元裁判官、報道機関からも深い懸念が相次いで表明されてきたところである。
また、法制審議会総会での採択において、出席委員17名のうち4名が反対、1名が棄権しており、要綱が幅広い合意を得られたとは言い難い。このような要綱には、公正性、中立性、専門性において大きな疑問があり、再審法改正を求める国民の意思からも乖離したものと言わざるを得ない。
4 結び
これに対し、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が取りまとめた「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(議連法案)は、証拠一覧表を含む幅広い証拠開示の制度化や検察官の不服申立ての全面的禁止など、えん罪被害者の救済に資する優れた内容となっている。
当会は、要綱に強く反対するとともに、国会に対し、真に実効性のある再審法改正を実現するため、速やかに議員立法により議連法案のとおり成立させることを強く求めるものである。

