声明・談話
国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明
2026年(令和8年)6月17日
和歌山弁護士会
会長 𠮷澤 尚美
昨今、袴田事件、福井女子中学生殺人事件と相次いで再審無罪判決が出された。また、プレサンス事件、大川原化工機事件など、冤罪事件も跡を絶たない。
したがって、誰であっても捜査や刑事訴追を受ける可能性がある中、国家権力からの人権侵害を防ぐため、起訴前の捜査段階や逮捕前の任意調べの段階での弁護人による弁護活動は充実したものでなければならない。
ところで、令和7年に取りまとめられた「改正刑訴法に関する刑事手続のあり方協議会」の報告書によれば、被疑者国選弁護制度の対象事件の9割近くの被疑者に捜査段階において国選弁護人が付されており、起訴後も継続して国選弁護人として活動することが通例であることを踏まえると、国選弁護制度は刑事司法の根幹を支える制度であるといえる。
いうまでもなく、近年の弁護活動には、IT化への対応、取調べ立会、責任能力や依存症に関する精神医学からのアプローチ、入口支援や出口支援の福祉専門職との連携など様々あり、弁護人の負担は確実に増大している。
とくに和歌山県は南北・東西に長い地理的特性を有しており、接見のための移動時間や交通費の負担も看過し得ない。とりわけ田辺・新宮の各支部管内の国選弁護活動については、拘置所や留置施設の集約化に伴い、接見のためにこれまで以上に遠方に赴かねばならないケースが増加しており、その負担が非常に大きくなっている状況にある。
したがって、地域に偏りなく良質な国選弁護活動を行っていくためには、こうした地域特性の負担を正当に評価する報酬・費用体系が不可欠といえる。
しかし、現行の国選弁護報酬は約20年間にわたって極めて低額な水準にとどまっている上、経済的に何ら評価されない弁護活動もあり、更には実費さえも十分に賄われない場合があるというのが現状である。
例えば、接見等のための交通費は遠距離移動に該当しなければ支出されず、遠距離接見等加算報酬が距離を基準に定められているものの、移動に要する時間は交通網の整備状況や渋滞等の影響により必ずしも距離とは比例せず、拘束時間に見合った報酬が支給されているとは言い難い。さらに、起訴後は接見を重ねても報酬に反映されず、身体拘束からの解放のための活動を行ったとしても実際に身体拘束が解かれない限り経済的に何ら評価されない。
また、無罪や縮小認定の判決が得られた場合には報酬が加算されるが、それに至らない認定落ちの場合には、いかにそれに向けた弁護活動を行い、被告人にとって有利に影響しようと何ら加算がない。
さらに、否認事件や法定刑に死刑の定めがある罪に係る事件等を除き、原則として謄写費用も一部しか支払われない。
このように国選弁護人の活動は、経済的にも労力の面でも負担が大きくなっているにもかかわらず、弁護活動に伴う最低限の経費すら十分に賄われず、弁護活動に見合った報酬も十分に支払われないという不合理な事態が生じている。
そのため、日本弁護士連合会及び当会では弁護士会費を原資として国選弁護人の活動に対する費用支出の援助を行い、会員による国選弁護活動を支えてきた。
刑事司法の根幹を支える国選弁護制度に関連する予算は160億円程度にとどまり、100兆円以上の我が国の国家予算に占める割合はわずか0.016%程度に過ぎず、その割合も年々低下しており、人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れているという他ない。
そこで、当会は、国選弁護制度による市民の権利擁護を実現していくため、国会、法務省及び財務省に対し、国選弁護報酬及び各種弁護費用についての抜本的な見直しを行い、弁護活動の負担を正当に評価した金額に増額することを強く求める。

