知っておきたい法律知識

障害者虐待防止法が成立致しました

高齢者・障害者支援センター運営委員会
委員長 堀江 佳史

1 はじめに

平成23年6月17日に、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「障害者虐待防止法」といいます。以下、特に断りのない限り、引用する条文は障害者虐待防止法の条文を指します。)が成立し、平成24年10月1日に施行されます。

この法律は、「障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障害者に対する虐待の禁止、障害者虐待の予防及び早期発見その他の障害者虐待の防止等に関する国等の責務、障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による障害者虐待の防止に資する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的とする」ものです(1条)。

2 定義

(1) 「障害者」の定義

改正後の障害者基本法2条1号の規定を準用しております(2条1項)。詳細は、改正障害者基本法についての解説を御参照下さい。

(2) 「障害者虐待」の定義

①養護者による障害者虐待、②障害者福祉施設従事者等による障害者虐待及び③使用者による障害者虐待をいいます(同条2項)。

(3) 「養護者による障害者虐待」の定義

次のいずれかに該当する行為をいいます(同条6項)。

①養護者がその養護する障害者について行う次に掲げる行為

イ 障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること(いわゆる「身体的虐待」)

ロ 障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること(いわゆる「性的虐待」)

ハ 障害者に対する著しい暴言又は拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(いわゆる「心理的虐待」)

ニ 障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイからハまでに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること(いわゆる「ネグレクト」)

②養護者又は障害者の親族が当該障害者の財産を不当に処分することその他当該障害者から不当に財産上の利益を得ること(いわゆる「経済的虐待」)

※ 身体的拘束が「身体的虐待」に該当することが明示されたのは、障害者に対する身体的拘束が切実な問題であることが反映された結果であると考えられます。この点が高齢者虐待防止法と異なる点です。

(4) 「障害者福祉施設従事者等による障害者虐待」の定義

障害者福祉施設従事者等が、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について行う身体的虐待、性的虐待、心理的虐待(養護者による障害者虐待とは異なり、不当な差別的言動も含まれることが明記されております。)、ネグレクト、経済的虐待をいいます(同条7項)。

(5) 「使用者による障害者虐待」の定義

使用者が当該事業所に使用される障害者について行う身体的虐待、性的虐待、心理的虐待(養護者による障害者虐待とは異なり、不当な差別的言動も含まれることが明記されております。)、ネグレクト、経済的虐待をいいます(同条8項)。

3 障害者虐待防止に関する具体的スキーム

(1) 養護者による障害者虐待の防止、養護者に対する支援

養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければなりません(7条1項)。

そして、通報を受けた市町村は、生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる障害者を一時的に保護するため障害者支援施設等に入所させる等の措置を講ずるものとされております(9条2項)。

また、市町村長は、必要に応じて成年後見開始審判の請求をするものとされております(同条3項)。

(2) 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の防止等

養護者による障害者虐待の場合と同様の通報義務が定められており(16条1項)、これを受けた市町村は、これを都道府県に報告しなければならないとされております(17条)。

そして、通報を受けた市町村及び都道府県は、社会福祉法、障害者自立支援法その他の関係法律の規定による権限を適切に行使するものとされております(19条)。具体的には、報告の徴収、出頭質問権、立入調査等の権限があり、指定取消権限等を含め適切な権限行使が期待されます。

また、都道府県知事は、毎年度、これらの障害者虐待があった場合に取った措置等を公表することとなっております(20条)。

(3) 使用者による障害者虐待の防止等

この場合も通報義務が定められておりますが、通報先が「市町村又は都道府県」とされております(22条1項)。

市町村が通報を受けた場合は、都道府県に通知され(23条)、都道府県は、虐待の通報を受けた場合や市町村から上記の通知を受けたときは、都道府県労働局に報告をしなければならないとされております(24条)。 そして、報告を受けた都道府県労働局は、労働基準法、障害者の雇用の促進等に関する法律等による権限を適切に行使するものとされております(26条)。

※ 高齢者虐待防止法では、「生命身体に重大な危険のおそれ」がない場合、一般人による通報は、通報義務が努力義務とされておりますが、障害者虐待防止法では、そのような区別をすることなく、(1)~(3)のいずれの場合でも、一律に通報義務が課されることとなっております。

4 市町村障害者虐待防止センター

市町村は、障害福祉担当部局等において市町村障害者虐待防止センターとしての機能を果たすようにするものとされております(32条1項)。なお、この業務の全部又は一部を民間に委託することもできます(33条1項)。この点は、介護保険法によって定められた地域包括支援センターと同様のイメージであると思われます。

また、高齢者虐待防止法と同様、市町村は、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならないとされており(35条)、高齢者障害者支援センター運営委員会では、高齢者虐待に対する対応と同様、市町村との連携協力体制の構築に積極的に関与して参りたいと考えております。