意見書

障害のある人もない人も共に安心して暮らしやすい和歌山市づくり条例に対する意見書

2016年(平成28年)1月18日
和歌山弁護士会
会長 木村 義人

1 条例制定について

和歌山市において障害者差別解消を目的とする条例を策定することは、日本でも批准された障害者権利条約の趣旨を和歌山市でも実現することにつながり得るものであり、評価すべきことである。そのことをまず踏まえた上で、本意見においては、条例制定の趣旨をより発展させるべく、意見を述べる。条例制定後は、当会としても相談段階から積極的に助言等を行ったり、地域協議会の運営に関与する等、積極的に条例の運用、普及、啓発に協力していきたいと考えている。

2 合理的配慮の位置づけについて(2条3項、3条1~4項)

1 保証契約の特色と保証被害

(1)本条例において「障害を理由とする差別」は、「正当な理由なく障害を理由とする不利益な取扱いをすること」及び「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮を行わないこと」と定義され(2条3項)、このような差別は3条1項で何人についても禁止されている。

(2)障害のある人から相談のある事例の多くは民間事業者等、市以外の者を相手方とするものと考えられるから、市のみならず、市以外の者(民間事業者等)にも合理的な配慮を行う義務が課せられることは妥当である。
しかし、本条例3条4項で、市に義務付けられている合理的配慮の内容については規定されているが、全条文を見ても、市以外の者が負う合理的配慮義務の内容が不明確である。そのため、実際の条例の運用の場面では混乱が生じることも予想される(例えば、飲食店がいかなる場合に身体障害のある人も入店できるようにするためのエレベーターや簡易スロープの設置義務を負うのかが問題となる場面など)。
そこで、市以外の者がいかなる場合にいかなる合理的配慮を提供すべきであり、どのような場合に「障害を理由とする差別」にあたることになるのか(過重負担との関係など)具体的に規定すべきである。

3 あっせん主体について(7~9条)

本条例では、あっせんを行うのは、地域協議会などではなく、「市長」とされている(9条)。

しかし、本条例では市も「障害を理由とする差別」(=合理的配慮の不提供を含む)をしてはならない義務を負っている(3条1項)。あっせん主体には、いかなる合理的配慮の提供が適切かの検討を含む柔軟かつ実効的なあっせん案の作成が求められる。しかるに、市による差別が問題となり、かつ相談や助言によっては解決に至らなかった事案において、市長が適切なあっせんを行える可能性は極めて低い(例えば、障害のある子どもの受け入れを市立保育園が拒否したような事例、市立保育園が提供すべき障害のある子どもに対する合理的配慮の内容が問題となる事例など)。

よって、あっせん主体は、第三者性、専門性を備え、障害当事者を含み、かつ機動性を有し、個別事例に十分対応できる機関が行うこととすべきである。なお、本条例によって設置が予定されている地域協議会にあっせんのための部会を設ける等、地域協議会をあっせん主体として活用することも検討されてよい。

4 障害の定義(2条1項)

(1)本条例2条1項で障害の定義に「難病」が含まれているが、ここにいう「難病」とは、「難病の患者に対する医療等に関する法律」(以下「難病法」という)にいう「難病」(同法1条)と同じ意味とも解釈され得る。

(2)難病法にいう「難病」とは「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」とされている。ここで、「発病の機構が明らかでないこと」、「患者数の希少性」などは、疾病対策の必要性から設けられた要件であるため、難治性疾患による生活上の支障がある者でも「難病」をもつと認められていない状況にある。
従って、本条例にいう「難病」が難病法と同じ定義と解釈されると、極めて狭い、谷間のある定義となってしまうため、不適切である。よって、本条例の定義規定から「難病」は削除すべきである。
なお、本条例の定義規定から「難病」を削除しても、難病に起因する機能障害により生活上の支障を有する者は「その他の心身の機能の障害」(2条1項)がある者として本条例の対象となり得るため、支障はない(むしろ幅広く本条例の対象となることが明確化される)。

5 コミュニケーション支援従事者について(2条5項)

(1)本条例3条6項(4)などを前提とすると、本条例の対象となる「コミュニケーションに対する支援」には、ALS患者等、肢体不自由のため音声言語によるコミュニケーションが困難であるため、文字盤や表情の読み取り等の手段による支援を行う場合も含まれると解される。

(2)本条例にいう「コミュニケーションに対する支援」に文字盤や表情の読み取り等の手段による支援を行う場合も含まれるとすれば、2条5項にいう「コミュニケーション支援従事者」にも、上記のような文字盤、表情の読み取り等の手段による支援を行う者も含まれることを明確化すべきである。