決議

弁護士報酬の敗訴者負担制度導入に反対する決議

弁護士報酬の一般的な敗訴者負担制度は、市民の司法へのアクセスを抑制するおそれがあり、また裁判の人権保障機能及び法創造機能を損なうものであるから、当会はその導入に強く反対する。

以上のとおり決議する

2003(平成15)年2月22日
和歌山弁護士会

理 由

  司法制度改革審議会意見書は、弁護士報酬について、「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくするという見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができるという制度を導入すべきである。この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いのあり方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方について検討すべきである」と提言した。

これを受けて、現在、司法アクセス検討会において、弁護士報酬の一般的な敗訴者負担制度導入に向けた具体的検討が議論されている。

 司法制度改革の基本理念は、市民に開かれた、市民の利用しやすい司法を実現して法の支配を我が国すみずみまで行き渡らせることである。しかしながら、弁護士費用の一般的な敗訴者負担制度が導入された場合には、むしろ、訴訟の利用を萎縮させる弊害を生じさせることこそが重大であり、司法制度改革の理念に反することになる。

実際の裁判においては、訴訟提起時に証拠が完全にそろって勝訴確実というケースは少なく、証拠の偏在、法律の解釈適用に幅があること、あるいは当該事案の性質などから、事実関係や勝敗の見通しを立てることが困難な場合が少なくない。

このような現実のもとで弁護士報酬の敗訴者負担制度を一般的に導入した場合、仮に敗訴すれば敗訴者は相手方の弁護士報酬をも二重に負担することとなり、経済的弱者は訴え提起や応訴をあきらめることにつながりかねない。これでは、弁護士費用の敗訴者負担制度は司法アクセスを阻害する制度となり、紛争解決の多くが裁判外の闇の世界で、弱者の泣き寝入りと犠牲の下に処理されてしまうことにもなりかねず、市民のための司法改革という理念に反することになる。

公害訴訟、薬害訴訟、労災訴訟、医療訴訟、消費者訴訟、住民訴訟や行政訴訟は、立法や行政あるいは大企業などによる人権侵害行為を救済してきたものであるが、この種の訴訟は、一般の訴訟に比べても証拠の偏在が著しく訴訟提起時に勝敗の見通しを立てることが極めて困難であることから、一般的な敗訴者負担制度が導入されれば、司法による人権救済機能は現在よりも後退することは、火を見るより明らかである。

これらの訴訟は、幾度もの敗訴判決を繰り返した上でようやく勝訴判決を獲得したり、あるいは敗訴判決の中でも権利性を認められるなどして、従来の判断を超えた新たな権利の確立と社会規範の創造に重要な役割を果たしてきた。ところが、一般的な敗訴者負担制度が導入されれば、これらの訴訟提起が抑制され、その結果、司法の場における法創造機能が損なわれることにつながりかねない。

  市民が経済的理由から訴訟を断念回避することをなくすためには、弁護士費用の一般的な敗訴者負担制度の導入よりもむしろ、法律扶助制度を拡充させて多くの市民が費用の心配をせずに裁判制度を利用できるようにすることが先決である。

仮に敗訴者負担制度の導入を検討するのであれば、国や地方自治体に対する公益のための訴訟に限って、原告勝訴の場合にのみ被告に弁護士費用を負担させるという片面的敗訴者負担制度を検討すべきである。

 以上のように、弁護士費用の一般的な敗訴者負担制度はその弊害が大きく、司法制度改革の理念にも反するので、強く反対するものである。