決議

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

2011年(平成23年)6月2日
和歌山弁護士会

当会は,わが国における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約等に定める個人通報制度の導入及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した,真に政府から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。

以上のとおり決議する

提案理由

1 個人通報制度について

国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃 条約等の人権条約には,様々な人権保障条項が規定されている。それらの人権を国際的な基準で確保してゆくための制度の一つとして,個人通報制度がある。

この個人通報制度とは,人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害され ているにも拘わらず,国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合,被害者個人等が各人権条約の定める国際機関(委員会)に通報し,その委員会の「見解(Views)」を求めて条約上の権利救済を図ろうとする制度である。

国際人権(自由権)規約及び女性差別撤廃条約は本体の条約に附帯する選択議 定書に個人通報制度を定め,拷問等禁止条約及び人種差別撤廃条約は本体条約の中に個人通報制度を備えており,個人通報制度を実現するためには,選択議定書の批准,あるいは,本体条約の当該条項の受諾宣言の手続が必要である。

しかしながら,わが国は,これまで選択議定書の批准,または,本体条約の当 該条項の受諾宣言をせず,個人通報制度をこれまで導入してこなかった。

残念ながら,日本の裁判所は,人権保障条項の適用について積極的とはいえず, 民事訴訟法の定める上告の理由には国際条約違反が含まれず,国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている。そのため,各人権条約における個人通報制度が日本で実現すれば,被害者個人が各人権条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能となり,日本の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得なくなる。その結果として,日本における人権保障水準が国際基準まで前進し,また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの著しい向上が期待される。

わが国は,すでに国際人権(自由権)規約委員会からは1993年,1998 年,2008年と3回も第1選択議定書の批准を勧告され,女性差別撤廃委員会,人権理事会等から様々な場で個人通報制度の受け入れを繰り返し勧告されている。

2 国内人権機関の設置について

国連決議及び人権諸条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権 が侵害され,その回復が求められる場合には,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するように求めており,多数の国が既にこれを設けている

国内人権機関を設置する場合,1993年12月の国連総会決議「国内人権機 関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことが必要とされている。

日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権 諸条約の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,また,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。

現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,独立性等の 点からも極めて不十分な制度である。

このような状況の中で,日本弁護士連合会は,2008年11月18日,パリ 原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。 さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関 の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど,国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。

3

2009年9月,民主党を中心とする新政権が誕生し,千葉法務大臣は,就任直後の記者会見で,取調べの可視化(取調べの録音,録画)とともに,国内人権機関の設置,個人通報制度を実現すると表明した。

これらの経過を踏まえ,日本弁護士連合会は,2010年5月28日,取調べの可視化とともに,国内人権機関の設置,個人通報制度の実現を求める総会決議をした。また,同年11月19日,当地和歌山において開催された近畿弁護士会連合会人権擁護大会において,「国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などに附帯する個人通報制度実現を求める決議」を採択したところである。

当会としても,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く導入し,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。