意見書

和歌山県消費生活条例施行規則の改正を求める意見書

2019年(令和元年)10月24日
和歌山弁護士会
会長 廣谷 行敏

第1 意見の趣旨

和歌山県は、訪問勧誘について、消費者が玄関やマンションの入り口等に「セールスお断り」「訪問販売お断り」などのステッカー(いわゆる「訪問販売お断りステッカー」)等を貼付することにより勧誘を拒絶する旨の意思を表示しているにもかかわらず、事業者が契約の締結を勧誘し又は契約を締結させる行為が、和歌山県消費生活条例第18条1項の「不当な取引行為」に該当することを、同条例施行規則に明記すべきである。

第2 意見の理由

1 問題の所在

PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)によれば、家庭訪販に関する消費者被害の相談件数は依然として多く、全国の消費生活センターにおける2018年度相談件数は4万8735件と、販売方法・手口別集計において4位の件数を記録している。和歌山県消費生活センターにおいては、家庭訪販に限定した相談件数は公開されていないものの、訪問販売全体に関する苦情相談件数は2018年度で436件と、高水準を維持している。なお、全国、和歌山のいずれにおいても、70歳以上の消費者による相談件数がとくに多いという指摘があり、このことは、高齢による勧誘拒絶力の低下に関係があるものと考えられる。

家庭訪販に関する相談件数が依然として多いことの一因として、訪問販売お断りステッカー等に法的効力がなく、実効性を持たないことが挙げられる。すなわち、特定商取引に関する法律第3条の2第2項は、消費者が「契約を締結しない旨の意思を表示」している場合、業者は勧誘をしてはならないと定めているが、消費者庁の運用指針(平成29年11月1日付通達の別添資料3)によれば、ここにいう「意思を表示」とは、業者に対し面と向かって拒絶意思を伝えた場合などを指し、単にステッカーを貼って勧誘拒絶意思を示した場合は含まれない。その結果、ステッカーを無視して訪問勧誘を行う業者の行為は、同法に反しないということになる。

このような解釈によれば、消費者は、訪問販売お断りステッカーを貼付するだけでなく、いったん事業者による訪問勧誘を受けた上で「いりません。」「お帰りください。」などと直接告げない限り、勧誘を拒絶することができない。これでは、面と向かって勧誘を断ることが難しい高齢者などは、十分に保護されないおそれがある。

2 近隣府県の状況

上記法律解釈の不備を受け、近隣の府県は、条例およびその解釈により、訪問販売お断りステッカーの実効化を図っている。

奈良県では、消費生活条例第14条1項において「不当な取引行為」を禁止し、その内容は知事が指定すると定めた上、知事の告示によって、「消費者がはり紙による表示その他の方法により訪問販売等に係る勧誘を拒絶する意思を表明しているにもかかわらず、又はその意思表示の機会を与えることなく、消費者の住居、勤務先その他の場所を訪問(中略)すること」が「不当な取引行為」に該当すると明示している(奈良県告示第694号の一1(二))。大阪府も、消費者保護条例第17条で「不当な取引行為」を禁止し、その内容は規則で定めるとした上で、同条例施行規則第5条及び別表一項トにおいて「拒絶の意思を表明している消費者に対し勧誘」することが「不当な取引行為」に該当することを示し、さらに、消費者保護条例逐条解説別冊(第17条「不当な取引行為の禁止」)において、「拒絶の意思を表明している」には、訪問者から見える場所に「訪問販売お断り」と明示したステッカーを貼った場合が含まれることを明らかにしている。

3 和歌山県の状況

これに対し、和歌山県では、消費生活条例第18条1項が「不当な取引行為」を禁止しているものの、その具体的内容を定めた同条例施行規則第3条には、訪問販売お断りステッカーを貼った消費者への訪問勧誘が含まれていない。その上、2018年12月の県議会では、議員からの「私、数年前まで新聞販売店をやってました。(中略)新聞販売店の業界ではどのような社会貢献をしているかといえば、先日も高齢者の見守り活動に功績があったとして知事から感謝状をいただきました。(中略)その新聞販売店も消費生活条例施行規則の一部が改正されると規制がきつくなり、訪問販売による新聞の普及ができなくなってしまうだけでなく、地域貢献も危うくなってきます。(中略)ステッカー等の貼付による訪問販売の規制と消費者保護について、環境生活部長はどう考えているのか、答弁を求めます。」という質問に対し、県の担当者が、「ステッカー等を貼付した家庭への訪問販売を(中略)不当な取引行為として規制することについての御質問についてお答えいたします。」「訪問販売お断りステッカーの貼付により一律に規制することは困難と考えます。」と答弁している。

この答弁は、事業者が訪問販売お断りステッカーを無視した勧誘を行うことについて、県が施行規則の改正によって規制をすることに否定的である旨を明らかにし、現状を是認したものである。かくして、このような勧誘行為は、奈良県内や大阪府内では条例違反となるが、和歌山県内で行う場合には合法となり、近隣府県との関係で和歌山県内に被害が集中しかねない、危険な状況を発生させている。

4 当会の考え

上記答弁の際、県の担当者は、「規制することは困難と考え」る理由として、①訪問販売業者には悪質な事業者もいるが「大半は従業員教育を徹底し、法令遵守に努めている健全な事業者」であること、②消費者はそのような事業者から「製品やサービス、情報を入手」し「生活の利便性を向上」させていること、③消費者は「商品配達時に高齢者の見守り支援を受け」ていること、④ステッカーを貼付した家庭への勧誘を規制すると、ステッカー貼付と勧誘行為の先後、勧誘事業者の特定など、運用面の問題が生じること、という諸点を挙げた。

しかし、①②については、そもそも居住者が訪問販売お断り意思の表明としてステッカーを貼付しているにもかかわらず、これを無視して呼び鈴を鳴らす事業者が、果たして「従業員教育を徹底し」た「健全な事業者」といえるのか、大いに疑問である。この場合、居住者は、県の担当者がいうところの「利便性」よりも訪問勧誘を受けないことによる静謐を選択し、その意思を表明しているのであるから、ステッカーを無視した勧誘行為を是認することによって後者の選択肢を奪うことは、当人の意思に反した「利便性」の押し付けであり、許されない。

2018年度和歌山県消費生活審議会の資料によれば、同年アンケートにおいて、37の事業者団体中6団体が「訪問販売(お断り)などの表示のある家には訪問しないようにしている」と回答した。本来、「健全な事業者」とはそのような事業者をいうものであろう。

なお、「商品配達時」に見守りを受けるか否かは訪問勧誘時の行為規制と無関係であるし、法令違反行為やその主体を特定できるか否かは規制の必要性と別個の問題であるから、③④はまったく的外れの指摘であり、ステッカーを無視した勧誘行為を是認する理由とはならない。

5 結論

当会は、従前から消費生活条例施行規則の改正を求めてきたところであるが(当会消費者保護委員会作成の平成29年10月13日付「和歌山県消費生活条例施行規則改正の必要性について」参照)、本書により、あらためて、意見の趣旨記載のとおり改善を求める。具体的には、消費生活条例第18条1項の「不当な取引行為」を具体化した同条例施行規則第3条に、あらたに第22号を設け、「消費者が住居等への貼り紙等により勧誘を拒絶する旨の意思を表示しているにもかかわらず、契約の締結を勧誘し、又は契約を締結させる行為」との文言を記載すべきである。