声明・談話

衆議院議員定数不均衡問題に関する会長声明

2000年(平成12年)2月2日
和歌山弁護士会 会長 山口 修

平成11年11月10日、最高裁判所は平成8年10月20日施行の衆議院議員総選挙における小選挙区の区割規定(以下、本件区割規定という)について裁判官14名中9名の多数意見で合憲とする判断を下した。

本件区割規定に基づく選挙区間における人口の最大較差は、上記選挙直近の平成7年10月実施の国勢調査によれば1対2.309に達し、その較差が2倍を超えた選挙区は300の小選挙区中60にも及んでいる。本件最高裁判決は、投票価値につきかかる2倍以上の較差を合憲とする点において、国民の選挙権の平等の重大性を看過するものであり、法の下の平等を保障した憲法14条に違反する法律を容認する判決であって、法に携わる者として看過できない。

本来、国民主権・代表民主制下において投票価値の平等原則は貫徹されるべきである。しかし、選挙区制を採用する中で投票価値の平等原則を完全に貫徹することが実現困難であるとしても、較差を2倍以内にすることは容易であり、2倍以上の較差を是認すべき合理的理由はない。このことは、憲法学界においても、少なくとも衆議院の場合は支配的見解である。

この点、本件最高裁判決の多数意見は過疎地への配慮等による国会の裁量権を言うようであるが、反対意見が的確に指摘するように通信、交通、報道の手段が著しく進歩、発展した今日、かかる配慮をする合理的理由は極めて乏しいというべきである。また、過疎地対策は重要な政治課題ではあるが、過疎地対策等の国会の裁量権を理由として投票価値の2倍以上の較差を是認することは、投票価値の平等が国民の参政権の平等を実現する基本的で重要な要請であることに鑑みると、許されないといわざるをえない。

憲法上、最高裁は違憲立法審査権を有し、法律の憲法適合性を審査すべき役割を有している。それは、憲法が国の制度の基本原理とする三権分立を実効あらしめる重要な役割である。国民主権・代表民主制下において国民が代表者選出過程に参加する選挙を規律する選挙制度立法において国会議員が自らの地位や同僚議員の地位の保全を図る等の理由で投票価値の平等を確保した立法ができないでいる場面でこそ、正に最高裁は違憲立法審査権を行使すべき憲法上の義務がある。

最高裁はこれまで中選挙区単記投票制下において投票価値の平等が憲法上の要請であることを認めながら、2倍を超える較差を是認してきた。平成6年の公職選挙法改正によって初めて小選挙区比例代表並立制が導入され、投票価値の平等をより実現しやすい状況にあるのに、衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条1項は定数配分について人口比例原則を採用する一方で同審議会設置法3条2項は1人別枠方式を採用した。その結果、上記の通り較差2倍を超える多数の選挙区が生じたのであるが、最高裁が従前同様に小選挙区比例代表並立制下においても2倍を超える較差を是認したのは誠に遺憾であり、多数意見の裁判官は憲法及び国民より託された違憲立法審査権を事実上放棄し、その職責を果たしていないといわざるをえない。

以上、声明する。

以 上