声明・談話

少年法改正についての会長声明

2000年(平成12年)11月7日
和歌山弁護士会会長声明

衆議院法務委員会及び同本会議は、本年10月31日、与党3党から提出されていた「少年法等の一部を改正する法律案」を採決した。

この法案は、現行少年法に関し、①刑事処罰可能年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げること、②16歳以上の少年の故意による犯罪によって被害者死亡という結果が生じた事件につき、家庭裁判所は原則として検察官に送致し、少年に刑事罰を受けさせること、③非行事実が争われた一定の事件の少年審判に検察官の立会を認めること、④検察官に抗告受理申立権を認めること、⑤被害者に家庭裁判所への意見陳述等を認めること、等の変更を加えるものである。

近時少年による殺人事件などがセンセーショナルに報道され、あたかも少年非行の凶悪化・低年齢化が進行しているかのように叫ばれているが、我が国の戦後これまでの少年非行の動向は、凶悪事件を含めて全体的に減少しており(犯罪白書によれば平成11年の少年非行は前年より8.8%減少した)、少年事件の凶悪化、低年齢化という改正案の前提には疑問がある。また、少年事件に対して厳罰を科することとしたとしても抑止効果があるとは思えない。厳罰化で対処しようとした欧米諸国(例えばアメリカ)においても、少年犯罪の減少にはつながらなかったことが指摘されている。少年事件に対して刑事裁判を受けさせるだけでは、非行に至る動機や背景事情を科学的に調査探求する努力がおろそかになり、少年の反省を深化させることが不十分となるだけでなく、再犯の防止という観点からの処遇の検討も困難になる。

また、少年審判への検察官の立会についても、少年審判に先立つ捜査過程を適正化するための方策を全く講じることなく、成人の刑事裁判では認められている証拠制限のためのルール(伝聞証拠排除の原則など)もないままに、審判への検察官の関与を認めるものであり、非行事実を争う少年にとって、成人以上に冤罪が発生しやすい手続き構造となってしまう。検察官の抗告受理申立権についても、家庭裁判所の処遇決定に検察官が関与する途を開くものとなってしまうという大きな問題点がある。

被害者に対する配慮を目的とした改正についても、被害者に対しては精神的支援、経済的・法的援助を含む総合的支援こそが求められており、改正案では到底十分とは言えない。

このように今回の少年法「改正」法案には、数多くの問題点があることが指摘され、慎重かつ十分な議論を求める声が挙がっており、国会の審議の過程でも上記の問題点が明らかになっているにもかかわらず、国会正常化後10月24日与野党による本格的な審議が始まってわずか1週間で同法案を採決したことは、極めて遺憾である。

少年法を含む少年司法制度は、21世紀の我が国の担い手である子どもの健全な発達環境をどのように整えるかという点と大きく関連するものであり極めて重要である。少年犯罪を防止するためには、少年犯罪発生の原因の探求、それに対する望ましい処遇や方策について、実証的な調査検討を慎重かつ精力的に行うべきであり、感情的な議論に流されて拙速に結論を出しては、将来に大きな禍根を残すことになりかねない。参議院の今後の審議においては、上記の問題点を含め、あらゆる角度からこの法案の問題点を徹底的に審議されるよう、強く要望するものである。

以 上