声明・談話

国選弁護報酬増額等に関する会長声明

1.わが国の刑事裁判は、その約4分の3が国選弁護人によって担われており、被告人の弁護人依頼権(憲法37条3項)を実質的に保障し、適正な刑事司法制度を維持していくためには、国選弁護の充実が不可欠である。

そして、国は、国選弁護を充実したものとするため、国選弁護人が十分な活動をすることができるだけの適正な報酬や費用を予算として確保しなければならない責務を有する。

2.しかしながら、国選弁護人に対する報酬や費用の支給の現状は、弁護活動に費やされる時間・労力や職務の専門性・重要性に照応したものとはなっておらず、あまりにも低廉なものであり、国選弁護制度は、それを担っている弁護士の犠牲と負担において運営されていると言わざるを得ない。

すなわち、現在の地方裁判所標準事件(3開廷)1件当たりの報酬支給基準額は85,200円と著しく低廉なものとされており、また、被害者との示談交渉、被害弁償、保釈請求等を行う場合の時間や労力が、現在の報酬基準に反映されているとは到底考えられない。加えて、記録謄写料、交通費、通信費、通訳料、翻訳料等の実費は、本来の報酬とは別に、弁護活動に必要不可欠な費用として全額支弁されて当然であるが、現実には、これらは、報酬に含まれた形でかつ制限された範囲でしか支給されていない。

データの比較でみても、国選弁護制度が導入された昭和24年から平成16年までの55年間に、国家予算は約116倍、裁判所予算は約72倍、裁判官の報酬月額(判事3号報酬)は約53倍となっているにもかかわらず、国選弁護人報酬支給基準額は約34倍にしかなっていない。すなわち、国選弁護人報酬基準額は、国家予算、裁判所予算、判事報酬などと比較しても、大きく減額されているのと等しい状況にある。しかも、最高裁判所の増額要望にもかかわらず、平成15年、平成16年と二年連続の報酬支給基準額の減額がなされているというのが現状である。

このような状況下では、国選弁護人は、十分な弁護活動をしようと努力すればするほど、実質的な経済的持ち出しを余儀なくされることになる。

3.よって、当会は、国選弁護人の報酬増額等に関して、以下の措置が実現されることを求める。
(1)①国選弁護人報酬の支給基準を第一審事件1件当たり、金20万円以上とし、このために必要な予算措置を講じること
②事件の難度(罪質・罪数など)、法廷外の準備活動、法廷内の具体的訴訟活動、出廷回数、審理期間など、弁護活動に費やされる労力の総体に応 じた報酬及び日当を支給すること
③外国人等の被告(要通訳)事件については、他の事件より弁護活動に困難が多いことを考慮し、通常の事件の場合の1.5倍程度の報酬を支給すること
(2)弁護活動のための記録謄写料、交通費、通信費、通訳料、翻訳料等の実費は、本来の報酬に必ず実費加算し、支給すること
(3)特別案件については、他の事件より弁護活動に困難が多いことを考慮し、相当額の報酬を支給すること

2004年(平成16年)8月10日
和歌山弁護士会
会長 松原 敏美