声明・談話

日本国憲法の改正手続に関する法律の成立についての会長声明

2007年(平成19年)5月15日
和歌山弁護士会
会長 中川 利彦

日本国憲法の改正手続に関する法律案が平成19年5月14日の参議院本会議において賛成多数により可決・成立したが、これに至るまでの過程において、国民に開かれた議論があまりにも不十分であったことは、極めて残念である。

日本国憲法の改正は、国政のあり方に大きな影響を与えるものであり、この手続に関する問題についても、国民が充分に議論して検討を尽くし、ひろく国民の意見を反映させるべきである。然るに公聴会の開催回数、場所及び日程などからしても、国民による議論が尽くされたとか、広く意見が聴取されたとは到底思われないまま上記の法案が可決・成立に至っている。

また上記法律案については、多くの問題点が含まれており、当会においても意見書を通じてつとに指摘してきたところである。ところが可決・成立に至る過程でも、これらの問題点が解消されたとはおよそ言いがたい。

例えば投票及び発議方式にまつわる規定、発議後投票までの期間に関する規定並びに最低投票率または絶対投票率に関する定めの欠如などについては、憲法改正手続において国民の意思が適切に反映されるものか疑問が残り、国民主権の原理に照らして重大な問題がある。さらに公務員・教育者の運動を規制する規定、組織的な買収や利益誘導を取り締まる規定並びに広報・広告に関する規定の内容については、国民の意見表明を萎縮させたり、多様な国民・団体が意見を表明する機会を確保できなくなることが懸念される。そして表現の自由や国民の知る権利が議会制民主主義の根底を支える自由権であることに鑑みると、これらの自由権の尊重及び擁護という観点からも重大な問題を内包している。

当会は、今後見込まれる日本国憲法の改正に関する動向についても、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律専門家としての立場から提言を行うとともに、国民主権、基本的人権の尊重及び恒久平和主義などの日本国憲法の基本原理が損なわれることのないよう不断に取り組み続けることを、ここに改めて表明する。