声明・談話

「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」に対する会長声明

2007年(平成19年)10月16日
和歌山弁護士会
会長 中川 利彦

警察庁は、本年9月、少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)の一部を改正する規則案(以下「本規則案」という)を公表した。

しかしながら本規則案は、以下述べる通り極めて多くの問題点を含んでおり、違憲・違法と言わざるを得ない。

  即ち警察庁は、本規則案について、本年6月1日に公布された少年法等の一部を改正する法律(平成19年法律第68号。以下「改正少年法」という)の施行に伴う規則改正であると説明している。

改正少年法は、政府提出法案の段階では警察官に「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する調査権限を付与する規定を置いていた。しかしもともと「ぐ犯少年」の範囲自体がかなり曖昧であるのに、「ぐ犯少年である疑いのある者」まで調査対象を広げてしまえば、警察官が主観的、抽象的に疑いをかけるだけで少年を調査できることになり、人権侵害を生ずる危険性が極めて高い。

そこで当会や日本弁護士連合会など多くの反対もあり、国会審議の中で与野党が一致してぐ犯少年に対する調査規定を削除し、改正少年法が成立したのである。

  ところが本規則案は、新たに第三章第三節に「ぐ犯調査」という項を設け、第27条において、「ぐ犯少年に係る事件の調査については…少年法第3条第1項第3号に掲げる事由があって、その性格または環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあることを具体的に明らかにするよう努める」との規定をおいた。

「ぐ犯事由」と「ぐ犯性」があることを警察官が具体的に明らかにするように努めるというのであるから、警察官が調査を開始する段階では、「ぐ犯事由」と「ぐ犯性」即ち「将来、罪を犯すおそれ」が具体的でなくともよいことになる。

要するに警察官が主観的、抽象的に「おそれ」があると判断すれば調査を開始できることになるのであって、国会審議において、警察官による調査権限の及ぶ範囲が不明確で調査対象の範囲が過度に拡大するおそれがあるという理由で認められなかった警察官の調査権限を、国家公安委員会規則で認めようとするものであり、改正少年法の立法経過に鑑みても憲法31条及び憲法41条に違反する違憲・違法な規定と言わざるを得ない。

  なお本規則案は、上記の外にも第三章第二節「触法調査」の項において、次に述べるような問題がある。

即ち改正少年法6条の3は、新たに触法少年事件の調査について弁護士付添人の選任権を認めたが、本規則案では、警察官が少年や保護者に対し弁護士付添人の選任権を告知しなければならない旨の規定がおかれていない。また少年がその意に反して供述しなくてもよい旨を告知しなければならない旨の規定もおかれていない。

しかし参議院法務委員会における改正少年法に対する附帯決議にもあるとおり、低年齢の少年は一般に被暗示性・被誘導性が強く触法少年に対する調査に際しては特段の配慮を要するところであり、最低限、上記各規定を置くべきである。

また本規則案20条4項は「少年に質問するに当たっては…少年の保護者その他の当該少年の保護又は監護の観点から適切と認められる者の立会いについて配慮するものとする」と規定しているが、むしろ少年の付添人や保護者等を立会わせなければならない旨を定めるべきである。

よって当会は、本規則案中第三章第三節の全部削除を求めると共に、第三章第二節についても、少年の人権保障及び適正手続確保の観点から所要の修正を行なうことを求めるものである。