声明・談話

取調べの全過程の可視化(録音・録画)を求める会長声明

2007年(平成19年)11月28日
和歌山弁護士会
会長 中川 利彦

本年2月23日、鹿児島地方裁判所は、公職選挙法違反被告事件(以下、「志布志事件」という)に関し、被告人全員を無罪とする判決を言い渡した。また、2002年(平成14年)に富山県氷見市において発生し、実刑が確定した2件の強姦等事件について、真犯人が別にいることが発覚し、富山地方裁判所は、再審において、本年10月10日、無罪を言い渡した。さらに、1989年(平成元年)に佐賀県で女性3人の遺体が発見されたことにより発覚した連続殺人事件についても、本年3月、福岡高等裁判所で、一審に引き続き無罪が言い渡された。

このような事件が生まれた原因は、結局、密室での取調べが、捜査官による威圧、利益誘導などの違法・不当な取調べに結びつき、虚偽の自白を誘発したことにある。二度とあってはならないこのような事態を防ぐにためには、まずは、少なくとも取調べが密室で行われず、外部の者が監視できるようになること、すなわち、取調べの「全過程」を可視化(録画・録音)すること以外にはあり得ないと考える。

また、志布志事件では、無罪判決までに3年8か月、54回の公判期日を要し、その多くは、自白の信用性に関する審理にあてられた。

この事件に限らず、自白の信用性についての審理が長期間に及んでいる原因は、密室での取調べにおいて何が行われたかについての客観的証拠がなく、調書作成者に対する取調べ状況についての尋問に膨大な時間が費やされるからである。しかし、どのような取調べが行われたかを明らかにするには、取調べの全過程を可視化すれば十分であり、取調べの全過程の可視化が行われれば、自白の任意性について、容易に、また短時間で適正な判定を下すことができる。とりわけ、今後導入される裁判員裁判においては、長期にわたって裁判員を拘束することが適当ではないことを考えると、取調べの全過程の可視化は不可欠である。

検察庁でも、2006年(平成18年)7月、取調べの一部録画・録音の試行を開始した。しかし、これは、検察官の裁量により、検察官による取調べの一部のみを録画・録音するものにすぎない。これでは、検察官による恣意的な運用を許すことになり、取調べの実態の評価を誤らせる危険がある。取調べの可視化の本来の意義は、捜査過程を透明化するところにあり、そのためには、検察官による取調べのみならず、警察での取調べも含めた、取調べの全過程を可視化する必要がある。

今日、イギリスやアメリカのかなりの州のほか、オーストラリア、韓国、香港、台湾、モンゴルなどでも、取調べの録音・録画を義務づける改革が既に行われており、取調べの全過程の可視化が世界の趨勢であることを考えても、我が国でも早急に導入すべきである。

よって、本会は、検察官による取調べのみならず、警察での取調べも含めた、取調べの全過程の可視化の早急な実現を求める。