声明・談話

消費者行政一元化を求める会長声明

2008年(平成20年)6月26日
和歌山弁護士会
会長 山西 陽裕

第1 意見の趣旨

 和歌山弁護士会は,十分な消費者保護を実現すべく消費者行政の一元化を図るために,消費者庁を設置するに際して,以下に列挙した制度の創設及び充実を求める。

 1 消費者の苦情相談が消費者生活窓口における助言・あっせん等により適切に解決・救済されるよう,地方自治体の相談窓口の拡充,消費者問題に精通した相談員の養成,そのための相談員の雇用形態の見直し等,地方の消費者行政に対して十分な予算を確保すること。

 2 消費者被害情報について,消費者,事業者及び他の行政機関からの情報を消費者庁に一元的に集約し,調査,公表する権限を消費者庁に与えること。

 3 消費者庁が,消費者政策についての企画・立案を行い,消費者被害が多発する分野についての関連法の所管を消費者庁に移管し,その企画・立案に関し,消費者庁から関係行政機関に対し勧告する権限及び事業者に対する直接的な規制権限を与えること。

 4 消費者庁及び関係省庁が調査把握した情報に基づき,適正な手続の下で事業者の違法収益を凍結・剥奪し被害者に分配する権限を付与すること

第2 意見の理由

 福田康夫内閣総理大臣は本年4月23日,官邸に設置した有識者らの「消費者行政推進会議」において,「政策全般にわたり消費者の視点から監視する,強力な権限を有する消費者庁を来年度に発足させる」との意向を明らかにした。

そして,同会議は,本年6月13日,消費者に身近な30の法律の移管を明記した他,消費者庁の果たす役割として,所管庁に対する指示・勧告権限など縦割り・すき間行政の弊害に対し迅速に対応するための諸権限や新規立法権限を持つ,「司令塔」の役割を求める最終報告を取りまとめたところである。

各省にまたがる消費者行政を一元化する「消費者庁」の創設は,消費者の権利の実現を図るためには不可欠であり,和歌山弁護士会は,消費者行政推進会議がまとめた最終報告を高く評価するとともに,今後この考え方に基づいて消費者行政一元化を早期に実現することを強く要望する。

 現在,地方自治体の消費者行政予算は年々削減されており,そのため消費者問題に精通した相談員数の不足や嘱託の相談員が多いことなど,必ずしも地方において消費者相談をはじめとする十分な消費者相談体制が取られているとはいえない。とりわけ,和歌山県では単位人口当たりの相談員数も,センターの設置箇所数も極めて貧弱な状態である。このような状況のもとで消費者庁が設立されたとしても,製品事故や消費者トラブルに関する情報が消費者庁により十分に収集・把握されず,十分な消費者保護が実現できないおそれがある。そこで,消費者庁の創設にあたっては,地方自治体の相談窓口において,人的及び物的体制を十分に確保することが必要である。

 また,従前は種々に分類された産業界ごとに,これらを所管する省庁が存在し,所轄産業界の保護育成を促進してきた経緯がある。しかしながら,専ら消費者の目線で物事を検討し,横断的な権限をもって消費者の権利または利益を擁護する組織が存在せず,そのことが各種法令による規制の間隙を突いた悪徳商法の発生につながり,あるいは新規なサービスについての権限または責任の所在を不明確にしていたことも否定できない。そこで,消費者庁の創設にあたっては,同庁が各種情報を一元的に集約,調査及び公表できるようにするとともに,関係する行政機関に適切な勧告を行い,内容に応じて事業者に対する直接的な処分,指導,助言もしくは勧告を行う権限が同庁に付与されなければならない。

 加えて,従前から,事業者の資産隠匿などのために被害者が訴訟等を利用しても救済されない事態が続いている。このような被害者を救済し,実効性のある消費者保護を図るためには,収集・分析した情報に基づき,消費者庁が事業者の違法収益を凍結・剥奪し,被害者に分配する権限を持つことは不可欠である。

和歌山弁護士会は,消費者被害を予防・救済するために実効性ある消費者庁を実現することを目指して,今後も消費者庁の組織のあり方について提言するなど,全力で取り組む所存である。