声明・談話

死刑執行に関する会長声明

2008年(平成20年)9月9日
和歌山弁護士会
会長 山西 陽裕

当会は、本年2月14日、同月1日に3名の死刑確定者に対して死刑が執行されたことを受け、政府及び法務大臣に対して、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう要請する会長声明を発表した。ところが、その後も4月10日に4名、6月17日にも3名の死刑確定者に対する死刑が執行された。特に昨年12月以降、半年あまりという極めて短い期間に合計13名もの大量の死刑執行が行われていることに対して、当会としては深く憂慮するものである。

先の会長声明でも述べたとおり、我が国では、4件の死刑確定事件(免田・財津川・松山・島田各事件)について、再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが、このような誤判を生じるに至った制度上・運用上の問題点について、抜本的な改善が図られておらず、誤った死刑判決に基づく執行の危険性は依然として消えていない。また、死刑と無期刑との量刑につき、裁判所間で判断が分かれる事例も相次ぎ、明確な判断基準が存在しているとは言いがたい。

国際的にも、死刑廃止条約が1989年12月15日に国連総会で採択された(1991年発効)、1997年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その中で日本を含む死刑存置国に対して「死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行っている。このような状況の中で死刑廃止国は増加し、現在では死刑存置国60カ国に対し、事実上の廃止国を含めた死刑廃止国は137カ国にのぼり、死刑廃止が国際的な潮流となっている。

また、国連拷問禁止委員会は、2007年5月18日、我が国の死刑制度の問題点を指摘した上で、死刑の執行を速やかに停止すべきことなどを勧告した。

さらに、同年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して、死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択された。本年5月の国連人権理事会の第2回普遍的定期的審査の作業部会では、我が国における死刑執行の継続に対する懸念が多数表明され、我が国の政府に対して死刑の執行停止が勧告された。

来年5月からは死刑対象事件を含む重大犯罪の審理に一般国民が参加する裁判員制度が始まり、裁判員が死刑判決の言い渡しに関与することとなるが、我が国の死刑制度が国民一般に明らかであるとは言いがたく、死刑という刑罰の適用に関する情報も秘匿されたままであり、的確な情報に基づく国民的議論も行われているとは言いがたい状態である。今我が国に求められているのは、上記勧告や決議案にどう答えるかどうかも含めて、死刑制度の存廃につき、開かれた国民的議論を行うことである。

現在、国会議員により「量刑制度を考える超党派議員の会」が発足し、短期間のうちに量刑の判断を迫られることとなる裁判員に死刑や無期刑の選択について何らかの手がかりを与えようとする動きやこれとは別に死刑と無期刑との中間に終身刑を設けようとする動きもみられるところであり、日本弁護士連合会も本年3月13日に「日弁連死刑執行停止法案」を作成・公表し、広く意見を求めようとしている。このような状況において、死刑執行を急ぐべきではない。

当会は、一連の死刑執行に対し、強い遺憾の意を表明するとともに、政府及び法務大臣に対して、死刑制度の存廃につき、国民的議論を尽くし、死刑制度に関する改善が行われるまでの一定期間、死刑の執行を停止するよう、あらためて強く要望するものである。