声明・談話

全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明

2010年(平成22年)6月25日
和歌山弁護士会
会長 冨山 信彦

 少年審判手続において、弁護士は、付添人という立場から、少年に対する非行事実の認定や保護処分の必要性に関する判断が適切に行われるようにするため、少年の立場に立って的確な主張を行うなど少年の権利を擁護する活動を行うほか、家庭・学校・職場等、少年を取り巻く環境の調整を行うことで、少年の更生を支援する活動を行っている。

 少年事件を起こしてしまった少年の多くは、家庭や学校に居場所がなく、信頼できる大人に出会えないままに、非行に至っていることが多い。そのような少年に対して、法的・社会的な援助をし、少年の成長・発達を支援する付添人の存在及び活動は、成人の刑事事件における弁護人以上に重要なものである。 そのため、わが国も批准している子どもの権利条約第40条2項(b)も、「刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は、…防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」と規定するとともに、同条約第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有し、裁判所その他の権限のある、独立の、かつ、公平な当局においてその自由の剥奪の合法性を争い並びにこれについての決定を速やかに受ける権利を有すること」と規定しており、身体拘束を受けた少年には必ず弁護士と接触する権利が保障されなければならないとしている。

  しかしながら、司法統計によれば、非行を行ったとされ家庭裁判所の審判に付された少年は2008年で年間54,054人であり、そのうち観護措置決定により少年鑑別所に収容された少年は11,519人に上るところ、弁護士が付添人として選任されたのは4,604人にすぎない。すなわち、弁護士が付添人として選任されるのは、少年鑑別所に収容され少年審判を受ける少年のうち多くとも約40パーセント程度にとどまり、少年審判を受ける全少年に対する割合では、わずか約8.5パーセントにすぎない。成人の刑事事件の約98パーセントに弁護人が選任されていることと比べると、少年事件において弁護士が付添人として選任される割合は極めて低く、少年の権利擁護の観点から極めて不十分な状況となっている。

  このような状況が生じている大きな原因として、少年審判で国選付添人を付すべき事件が限定されていることがあげられる。2007年11月導入された国選付添人制度は、その対象は重大な事件(①故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪、②死刑、無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪)に限定され、しかも、原則、家庭裁判所が必要と認めた場合に裁量で付すことができる制度にとどまっている。その結果、2008年に国選付添人が選任された少年は451人、少年審判を受ける全少年の約0.8パーセントにすぎないこととなっている。

 さらに、2009年5月21日以降、被疑者国選弁護事件の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたことにより、被疑者段階の少年には、少年自身が弁護人の選任を請求すれば国選弁護人が選任されるものの、家庭裁判所送致後は、国選付添人の選任要件を満たさないために国選による付添人が選任されない事態が生じており、成人の被疑者・被告人に比して、より一層少年に対する権利保障が不十分で、制度上の矛盾があることが明らかとなっている。

  当会では、上記の弁護士による付添人活動の重要性に鑑み、被疑者段階で少年の弁護人となった会員が、家庭裁判所送致後も引続き付添人として活動することとし、少年の権利擁護や更生への支援に努めているところである。また、2010年4月より、少年鑑別所へ収容された少年に面会に行く当番付添人制度を開始した。これらによって、付添人として弁護士が選任される割合は増加が見込まれるものの、成人刑事被告人に対する弁護人の選任体制と比べれば、少年に対する法的援助はいまだ不十分な状態である。

  しかし、捜査から少年審判に至る一連の手続きにおいて、少年に法的援助の機会を与え、適正手続を保障し、少年の更生を支援することは、国の責務である。国による少年への法的援助が成人に対する法的援助よりも不十分であるという事態は一刻も早く改善されなければならない。

 以上から、当会は、国に対して、

(1) 速やかに、国選付添人選任制度の対象事件を必要的弁護事件にまで拡大し、少年に対し、成人刑事被告人と同様の保障を与えること

(2) 将来的には、観護措置決定により少年鑑別所に収容された全ての少年に対し、国選付添人を選任できる制度とすること

を強く求める。