声明・談話

布川事件再審無罪判決に関する会長声明

2011年(平成23年)6月2日
和歌山弁護士会
会長 由良 登信

本年5月24日、水戸地方裁判所土浦支部は、「布川事件」について櫻井昌司氏、杉山卓男氏に対し、再審無罪判決を言い渡した。 本件強盗殺人現場には激しい格闘があったことや室内が物色されたことが明らかな多くの痕跡があったものの、両氏の指紋や毛髪は全く存在せず、他にも両氏が犯人であることを示す物的証拠は皆無であった。それにもかかわらず、代用監獄で偽計・脅迫等によりもたらされた虚偽自白や、誘導され変遷が顕著な目撃証言など、はなはだ危うい供述証拠のみを根拠に有罪が認定された。

また、裁判所は、警察の取調べの最終段階における自白録音テープに大きく影響を受けて自白の任意性を認めてしまった。しかし、弁護側の再審公判における鑑定により、警察の取調べの最終段階における自白録音テープには、13箇所の編集痕があったことが判明した。再審無罪判決においては、捜査官の供述の信用性が乏しいことと併せて、録音テープには高い証拠価値は認められないとされ、最終的に両氏の自白の信用性は否定され、任意性に疑いがあるとされた。

このことは、密室での取調べの弊害のみならず、取調べの一部録音・録画が、冤罪防止に全く効果がないばかりか、かえって虚偽自白に任意性・信用性を付与し、事実認定を誤らせる危険で有害なものであることを証明している。

警察及び検察は、再審無罪判決により自白の信用性は否定され、任意性に疑いがあるとされたこと及び最終的にこのような判断がなされた虚偽の自白が冤罪を生み出したことを真摯に受けとめるべきである。すなわち、警察および検察は、密室における取調べが虚偽自白を生み冤罪を生み出す最大の原因となっていることを自覚するとともに、現在行われている取調べの一部の録音・録画が、かえって事実認定を誤らせ冤罪を生み出す危険で有害なものであることを認識すべきである。こうした密室での取調べによる虚偽の自白をなくすために、取調べ過程を客観的に検証可能にすべく、早急に取調べの可視化をすべきである。また、目撃者ら参考人の誘導による目撃証言も有罪認定の根拠となり、参考人に対する密室取調べの弊害も明らかである以上、可視化の対象には参考人取調べも含めなければならない。

さらに、両氏が無罪であることを示す証拠はずっと隠されたままであり、無罪方向の証拠の多くがようやく開示されたのは、第二次再審請求後のことであった。このように、冤罪を防止するためには、検察官の手持ち証拠に限らず証拠の全面開示の実現が必要なことは明らかである。

当会は、検察官に対して、直ちに控訴権を放棄し無罪判決を確定させるように強く求めるとともに、国、法務省および検察庁に対し、二度と櫻井氏、杉山氏のような冤罪被害者を生むことがないようにすべく、すべての被疑者及び参考人について取調べの可視化(取調べ全過程の録画)および証拠の全面開示の制度を早急に実現するよう強く求める。