声明・談話

裁判所速記官の養成再開を求める会長声明

2011年(平成23年)6月23日
和歌山弁護士会
会長 由良 登信

要請の趣旨

当会は、最高裁判所において、速やかに、裁判所速記官の養成を再開されることを強く求める。

要請の理由

1 裁判所速記官制度は、裁判記録の正確性や公正性を担保するとともに、迅速な裁判に資するものである。   
しかしながら、最高裁判所は、1998年度より、新たな速記官の養成を停止しており、かつて全国に825名配置されていた速記官は、2010年4月には240名にまで減少している。和歌山地裁においては、現在3名の速記官が民事・刑事事件の法廷に立ち会っているが、現状のままでは定年退職等により、10年後には速記官が存しなくなる状況である。

2 最高裁判所は、裁判所速記官による速記録に代わるものとして、民間への委託による「録音反訳」を導入している。しかし、「録音反訳」は、法廷で録音された録音媒体を基に民間業者が反訳することから、反訳を行う者が法廷に立ち会っていないために、調書の完成までに時間がかかること、誤字・脱字・訂正漏れ等が散見されること、プライバシー保護が十分に図られないおそれがあることなどの問題が生じるものである。
また、裁判員裁判の実施に伴い、ビデオ録画とコンピュータの音声認識を組み合わせ、一定の単語を手がかりに、証言や供述の各場面を検索できるようにして、評議に対応しているところであるが、現在利用されているこのシステムは誤変換が多く、正確な記録となっていないことや、DVDでは一覧性や速読性に欠けることから、審理や訴訟準備に利用しにくいといえる。

3 これに対し、裁判所速記官による速記録は、公判終了後直ちに文字化されて証言・供述記録を作成することができるまでに進歩している。文字化された逐語録調書は、一覧性に優れ、確認したい証言や供述を速やかに探し出すことが可能である。
ビデオ録画とコンピュータによる音声認識の場合、発言が重なったり、あいまいな発音のために、証言や供述内容が確認できない場合が考えられるが、裁判所速記官による速記録の場合には、速記官が立ち会って、その場で証言や供述を確認できるため、証言や供述内容が確認できない場合はほとんどない。この点でも、速記官による速記録は極めて正確なものであり、ビデオ録画とコンピュータによる音声認識の組み合わせに比べて、優位であることは明白である。

4 公正で客観的な記録の存在は、国民の公正・迅速な裁判を受ける権利を保障するための不可欠の前提である。裁判の適正や裁判所の記録作成に対する国民の信頼を確保するためには、厳しい研修を受け、裁判の実情に精通した裁判所速記官による速記録の作成が必要不可欠である。
よって当会は、最高裁判所において、速やかに裁判所速記官の養成を再開するよう強く求める。