声明・談話

原子力発電を中心としたエネルギー政策からの転換を求める会長声明

2011年(平成23年)12月16日
和歌山弁護士会
会長 由良 登信

1 原子力発電所事故による人権侵害と原子力発電所の危険性

平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は,広範囲の地域の人々に様々な被害を生じさせているものであり,極めて重大な人権侵害である。

この事故により放出された放射性物質は広範囲に拡散し,同発電所から遠く離れた場所にもホットスポットを形成するなどしており,除染作業を余儀なくされている。

放射線による汚染が深刻な地域においては,9ヶ月以上を経過してもなお住みなれた地域を離れて居住せざるを得ない状況が続いており,これら地域のコミュニティーは破壊され,コミュニティーの再生が困難な地域も生じている。

また,食料の汚染による内部被曝のおそれも無視できない。それは,放射能汚染地域とされている地域はもちろんのこと,流通によって日本に居住する全ての人の健康に対し影響を与えるものである。

原子力発電所(以下「原発」という)の事故はこれまでも数々起きており,原発がある限り,今後も事故を完全に無くすことはできない。また,今般の事故においては,原子炉冷却機能の喪失等が発生することを予想していなかったことなどからすれば,安全性確保の体制も不十分であったと言うほかなく,これまで国や電気事業者が行ってきた原発の安全性に関する広報は信頼することができない。

そもそも原発は,有害な核燃料物質を利用する本質的に危険なものである上,その運用に伴い発生する核廃棄物の安全な処理方法さえ確立していない。当会では,平成16年に使用済み核燃料の中間貯蔵施設建設についてのシンポジウムを開催しており,原子力発電の問題点についても指摘している。

現状の原発を容認することは,現在及び将来の国民に対する重大な人権侵害を再びもたらすおそれがある。

2 再生可能エネルギーへの転換を図るべきこと

わが国では,今回の原発事故前の段階で総発電量の約30%を原発でまかなってきており,原発の代替エネルギーをどのように確保するかは困難な問題である。

しかし,これを火力発電のみで補うことは,二酸化炭素(CO2)排出量の増加につながり地球温暖化を加速させることになるし,火力発電の燃料である化石燃料はわが国ではほとんどが海外からの輸入に頼らざるを得ない上に,無限の資源ではなく将来枯渇すると予想され永続性にも問題がある。

そこで,発電時にCO2を排出せず,しかも無限の資源といえる太陽光,風力,水力,地熱,バイオマスなどの再生可能エネルギーへの転換が必要となる。

ドイツやデンマークなどに比べるとまだまだではあるが,徐々にわが国でも,太陽光,風力等の再生可能エネルギーを利用した発電が普及しつつある。太陽光発電においては,余剰電力の買取制度ができているし,風力発電においては,一部地域で民間企業が発電事業に積極的に乗り出している。わが国は,これらの再生可能エネルギーによる発電の促進について,さらに積極的な政策を推進していくべきである。当会においては,平成23年1月27日に「環境問題について考える市民集会~再生可能エネルギーへの転換と推進」を開催し,再生可能エネルギーの促進に向け,電力の自由化,固定価格での全量買取制度の導入等の適切な普及政策を採用するとともに,再生可能エネルギーの利用における種々のマイナス要素への対策の充実化が必要であることを確認している。

原発が安全なものとは言えないこと,及び人体,自然環境に取り返しのつかない悪影響を与えることが明白になった今,国に対し,原発をできるだけ速やかに廃止するとともに,今後のエネルギー政策は,現在の温暖化防止という潮流から外れることなく,再生可能エネルギーを中心に据えたものへと転換を図ることを求める。