声明・談話

生活保護基準の引き下げに反対する会長声明

2013年(平成25年)2月15日
和歌山弁護士会
会長 阪本 康文

政府は、来年度予算編成で焦点となっている生活保護基準の引き下げについて、生活保護世帯の生活費に当たる生活扶助費を3年間で670億円減らし、年末に支給する「期末一時扶助金」も70億円削減する方針を決定した。  

しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化するものであり、わが国の生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。

生活保護基準は、地方税の非課税基準、国民健康保険料の減免基準及び公立高校の授業料の減免基準など、国民生活の全般にわたる多様な施策の適用基準にも連動しているのであって、生活保護基準の引き下げが、低所得世帯を中心とする国民の生活に甚大な影響を与えることは、容易に予測できる。

したがって生活保護基準引き下げを決するに当たっては、低所得世帯を含む国民各層の意見を十分聴取し、慎重かつ多角的な検討を行うことが、必須の前提条件となるべきである。

然るに、政府が生活保護基準引き下げの方針を打ち出した理由は、過去最多の更新が続く生活保護費が財政を圧迫しており、これを圧縮することにある。これは国民の生存権や、低所得世帯の生活の実情に対する十分な配慮を欠いたものである上、このような理由による生活保護基準の引き下げを安易に容認すれば、生活に困窮する国民の増加にもかかわらず、同様の切り下げが繰り返されることにつながりかねない。

そもそもわが国の人口1,000人あたりの被保護実人員は約16人と先進諸外国よりも格段に低く(2010年:英国及びドイツはいずれも被保護実人員90人以上)、わが国の生活保護費のGDPに占める割合も約0.6%とOECD加盟国の平均の4分の1に過ぎない(2007年)。そのため財政上の収支改善を理由として、生活保護基準を引き下げるべき実情にあるとは考え難い。

また、平成22年4月9日付けで厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計」では、全世帯を所得の低い方から高い方に順に各世帯数が等しくなるように十等分して並べた「所得の十分位階級」のうちの最も低いグループである第1・十分位層の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証手法が用いられているが、これによるとわが国の生活保護の「捕捉率」(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は、2割ないし3割程度と推測されており、生活保護基準を下回る所得しかない世帯のうち実に7割以上が生活保護を利用していないことになる。そうすると低所得世帯の消費支出が生活保護基準以下となるのは、むしろ当然であって、問題は生活保護基準の相対的な高さにあるのではなく、生活に困窮しながら適切な給付を受けられない国民(生活保護漏給層)に対して十分な対策がとられていないことに求められる。

かかる生活保護基準の引き下げの動きの背景には、生活保護の不正受給が増加しているとの見方があると思われる。しかし、「不正受給」は金額ベースで0.4%弱で推移しており、近年目立って増加しているという事実はない。

このように今般の生活保護基準の引き下げに関する政府の決定は、合理的根拠が乏しい上、低所得世帯の生活に与える甚大な影響への配慮を欠き、財政上の目標ないし要望を生存権の保障よりも上位に置くものと評価せざるを得ず、とうてい賛同できない。

よって、当会は、来年度予算編成において生活保護基準を引き下げることに強く反対する。